京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

シリア難民の生存基盤と帰属問題の研究(2017年度)

シリア難民が多く居住する東アンマンの住宅街

対象とする問題の概要

 国民国家制度はこれまで「国民」の生存基盤と帰属問題を保障してきた。しかし、国民国家制度が変容する中で様々な限界が露呈し、数々の難民問題を生み出す一方で、それに対して不十分な対応しかできないでいる。
 特にシリア難民問題は、正当性を脅かされたアサド政権と自己利益の最大化の為に「正義」を標榜する複数のアクターによってシリア内戦が泥沼化する中で、「今世紀最大の人道危機」と評される程に悲惨な様相を呈している。近隣諸国へのシリア難民の大量流入は「中東国民国家体制」を脅かす事態を招いている。また、西欧においても国民国家制度の様々な問題が表出する中で、2015年にそれがシリア難民危機(the Syrian Refugee Crisis)という形で争点化され、現在まで根本的な解決には至っていない。
 シリア難民の早期帰還が困難と予想される中で、彼らが生存基盤を再構築し、それを維持していくためには、国民国家制度を再考した新たな形での帰属の保障が必要である。

研究目的

 本研究の目的は、シリア内戦の長期化によってシリア難民の早期帰還が困難と予想される中で、いかに彼らが自らの生存基盤を再構築し維持していくのか、その実情を明らかにすることである。
 2011年に勃発した「シリア内戦」は、これまでに500万人を超える難民を生み出した。シリア難民の多くはトルコ等の近隣諸国に避難しており、その内の約66万人がヨルダンに滞在している。すなわち、現在のヨルダンはシリア難民問題の当事国の1つであり、シリア難民を研究するにあたって重要な地域となっている。
 今回の臨地調査では、シリア難民に対する聞き取り調査を実施した。調査は、難民が居住する市街地やシリア難民キャンプにて行った。また、支援を行う側からの視点を得るために、現地で難民支援に携わっているNPO職員への聞き取り調査を行った。
 また、調査と並行して現地の語学学校に通うことで、本研究において必要不可欠であるアラビア語の運用能力の向上を図った。

シリア難民キャンプの様子

フィールドワークから得られた知見について

 今回の臨地調査では、主に東アンマンに住むシリア難民の家庭を訪問し、聞き取り調査を行った。聞き取り調査の主な質問事項は、家族構成、出身地、受給している支援の有無、仕事の有無等である。合計10軒の家庭を訪問し、その内8軒から詳しく話を聞くことができた。聞き取りの結果、ヨルダンにおける国連からの支援はフードクーポンの配布による食糧支援と、現金支給による援助が主であることが分かった。前者はシリア難民全員を対象とするものであり、都市部に住む者は1人当たり月に10JOD(1,600円相当)の食料支援を受給できる。後者は家庭状況によって支援の有無が決まり、例えば家族の中に体の不自由な者がいるなど、特別の事由がある場合に支給される。家庭によって受給している支援やその額はまちまちであったが、どの家庭も定職を有している者がいないことや、それ故に月に23,000円ほどかかる家賃の支払いで生活が圧迫されているなどの共通点が見られた。
 同様の調査をシリア難民キャンプにおいても実施し、3つの家庭を訪問した。キャンプではフードクーポンの受給額が1人当たり月20JDと手厚い上にパンの支給があり、医療や教育への支援へのアクセスも容易な環境にある。しかし、今なおシリア難民は簡易的なプレハブ住居に住んでおり、改築して住環境を改善する財力の無い家庭はキッチンがないなど衛生上問題のある悪環境に置かれていた。また、キャンプ内でも収入源となるような仕事を見つけることが難しく、違法な労働に携わっている者も見られた。
 また、上記の調査と並行して、現地でNGO団体職員として働く日本人に対する聞き取り調査を行った。この聞き取り調査から分かったことは、シリア難民に対する国連や各NGO団体からの支援が年々減ってきているという現状である。実際、フードクーポンの支給額は年々減額されており、現金支給をカットされた家庭も今回の調査中に見受けられた。

反省と今後の展開

 今回の調査では貧困層の多い地域や難民キャンプ内の家庭を対象としたため、訪問した家庭は特別な支援を必要とする家庭が大半であった。しかし、出会ったシリア難民の中には十分な経済力を持ち、支援を必要としない人々も一定数存在した。調査で得られるデータの精度を向上するためにも、今後は自身の研究の対象にする予定であるシリア難民の経済的、社会的レベルを明確化してから調査に臨むことが課題として挙げられる。
 また、調査と並行して現地の語学学校の初級クラスに通学し、アラビア語能力の向上に努め、その結果3段階の成績評価で1番良い成績を収めることができた。シリア難民からの聞き取りや文献を読解する能力を高めるため、今後も大学院でアラビア語能力の向上を図っていく予定である。
 シリア難民家庭へのホームステイなどを通じて得られた現地の人々との繋がりを大切にして、今後もヨルダンでの調査を継続していきたい。

  • レポート:望月 葵(平成29年入学)
  • 派遣先国:ヨルダン・ハシミテ王国
  • キーワード:シリア難民、シリア内戦、中東国民国家体制

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