京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

インドネシア・リアウ州における泥炭火災の特徴とその発生要因の解明

排水路内の小規模ダム(写真中央部)

対象とする問題の概要

 インドネシアでは泥炭地で起きる「泥炭火災」が深刻な問題となっている。泥炭火災とは、泥炭地で起きる火災である。泥炭地は湿地内で倒木した木が水中でほぼ分解されず、そのまま土壌に蓄えられた土地であり、大量の有機物が蓄えられる。同国では、約2100万haの泥炭地が広がっており、574億トン相当の豊富な炭素を蓄えている[Page 2011]。
 泥炭火災が起きるとPM2.5といった微粒子状物質を含んだヘイズ(煙霧)が発生し、その影響はインドネシア以外のシンガポールやマレーシアにも拡大する。2015年には兵庫県の面積に匹敵する86万haという広範囲で泥炭が焼失し、その煙害は視界不良だけでなく急性呼吸器感染症といった健康被害にまで影響を及ぼした[World Bank 2016]。
 調査地であるインドネシア・リアウ州では泥炭地が約400万ha広がっており、国内有数の炭素蓄積が見込まれる地域である。その一方で、ほぼ毎年発生する泥炭火災が問題となっている。

研究目的

 2001年から2016年までの火災の動向を衛星解析した結果、リアウ州での火災の分布が一様ではないことが明らかになった。しかし、分布のばらつきは、無降雨日数や先行降雨量の関連性だけでは説明ができない。同州では1970年代以降、伐採権を持った企業の進出やそれにともなう人口増加によって土地利用が急激に変化している。そのため、人間活動による土地の改変が、火災の分布に影響を及ぼしている可能性が高い。よって、本研究では、泥炭火災と人間活動の関連性について着目し、研究に取り組む。
 本活動では、1) インドネシア・リアウ州で住民やNGOへの聞き取り調査、2)泥炭火災が頻繁に起きているリアウ州のタンジュルバン村周辺で野外調査の2つの方法より、地域住民や企業における泥炭地の利用や管理方法を把握する。それによって、泥炭火災に結びつく人為的な要因を特定することが本研究の目的である。。

植栽後の泥炭湿地林

フィールドワークから得られた知見について

1.泥炭火災の発生を促す泥炭湿地の乾燥化(乾陸化)
 住民やNGOへの聞き取り調査により、泥炭火災が起きやすくなる条件として、火災が発生、延焼しやすい状況となる「土壌の乾燥化・乾陸化」が原因として扱われていた。土壌が乾燥化する理由としては、降水量の季節変動や年々変動に伴う干ばつの頻発などが挙げられた。その一方で、タンジュルバン村周辺では半世紀足らずで土地利用に急激な変化があったことから、人間活動が土壌の乾燥化などの自然環境に影響を及ぼしている可能性が十分にあった。現地調査を行った結果、泥炭地を乾燥化させる目的で敷設された排水路が土壌の水分環境を悪化させていることが判明した。
このことから、泥炭地火災を理解するためには排水路建設に代表される様々な土地利用改変の把握が重要であり、水文気象条件の変動と併せて環境影響評価を行う必要性が明らかになった。

2.泥炭火災の予防に寄与する湿地回復プロジェクト
 人間活動によるネガティブな要因が働いている一方で、上記の排水の影響を緩和させる「湿地回復のプロジェクト」がタンジュルバン村で実施されていた。取り組みとしては、大きく分けて1)水路内に小規模なダム(写真1)の敷設、2)荒廃地への植栽の2つであった。河川内に小規模なダムを作ることで、排水路によって下がった地下水位を回復できる。そして、地下水位が回復した荒廃地に植栽することで湿地内に森林が成立する(図2)。このように健全な湿地林が成立することで、泥炭火災が起きづらい環境を形成するだけでなく木材など人々が生計活動に必要な資源を湿地林から得ることができる。収入を得られる環境を整備することで、地域住民が湿地林を積極的に管理する動機付けができ、長期的な湿地林の回復プロジェクトを目指していることが感じられた。

反省と今後の展開

(1)測定機器による自然環境条件の数値化
 今回の活動で泥炭火災が起きている原因として土壌の乾燥化が大きな要因の1つであり、その一例として排水路の敷設という人間活動が影響していることが分かった。しかし、本活動では土壌水分量をはじめとして各種要因をデータ化しておらず、降水量や排水の影響を客観的に理解することが困難である。よって、次回の調査では土壌水分計や地下水位計といった計測機器を設置し、調査地の自然環境条件を数値化できるように取り組む。
(2)火入れについて
 泥炭火災の主な火種は土壌が乾燥化し、乾季の終盤に農地における雑草除去を主目的とした「火入れ」である。現在の泥炭火災は火入れの大小にかかわらず、様々な条件により大規模化な火災に繋がってしまう。それらの関連性を明らかにするため、私の今後の研究では地域住民の点火前の準備や点火後の管理方法について調査を実施する。

参考文献

【1】Page, S. E., Rieley, J. O., and Banks, C. J.: Global and regional importance of the tropical peatland carbon pool. 2011; Glob. Change Biol; 17, 798–818,
【2】World Bank. The cost of fire: An Economic Analysis of Indonesia’s 2015 Fire Crisis. 2016 Feb; Indonesia Sustainable Landscape Knowledge Note.1.10p

  • レポート:亀岡 大真(平成29年(編)入学)
  • 派遣先国:インドネシア
  • 渡航期間:2017年8月8日から2017年10月30日
  • キーワード:泥炭火災、インドネシア、健康被害、人間活動

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