京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

在日ムスリムのイスラーム学習とその傾向

クルアーン読誦練習(兵庫モスクにて)

研究全体の概要

 2011年時点で、日本国内には57のモスクが設置されている。モスクは祈りの場であると同時に、クルアーンの暗記やアラビア語の学習の場としても存在していることはこれまでに明らかになっていた(三木・櫻井2012:21)。しかし、その実態については詳細が明らかにされてこなかった。今回のイスラーム学習に関する調査では、日本で教育を受けた10代後半から20代の男女が参加している、イスラームを学ぶ場を中心に聞き取り調査をした。調査後、教師、生徒、教材の3点に注目し、日本におけるイスラーム学習の分析を行った。その結果、日本におけるイスラーム学習における教育者側に伴う言語の問題、学習者の年代による学習内容と目的の多様性が明らかになった。なお、本調査は調査者の最も大きな研究テーマはインドネシアにおけるイスラーム教育である。現在は渡航が困難であるため、イスラーム教育を調査する際の手法を確立するための一つの手立てとして実施した。

研究の背景と目的

 本調査の目的は、日本のモスク等のイスラーム関連施設におけるイスラーム学習について各地で調査することによって、日本の地域や各モスクの文化的な特徴を捉えるとともに、日本のモスクでされる「イスラーム教育」の傾向を明らかにすることである。教育を分析するに当たって、教育をする「教師」の背景や、「教材」がどのイスラーム地域に影響を受けているのか、そして教育を受ける「生徒」の受け取り方という3点に注目して調査・分析をしていきたい。博士予備論分ではインドネシアの宗教的穏健化政策をイスラーム教育から明らかにしようとしており、本調査と博士予備論分の関連は、「イスラーム教育」にあるといえる。また、フィールドに行けるような社会的状態になれば、インドネシアの教育機関への調査をするが、本調査はそのためのイスラーム関連機関に対する調査や分析の方法を確立するための役割の一端を担う。

オンライン勉強会(ジャパン・ダアワ・センターにて)

調査から得られた知見

 ① 教育者
 今回の調査では大まかに2つのパターンが見えた。一点目はシリアの大学やエジプトのアズハル大学などを修了した日本人ムスリムである。時節柄、多くの方がオンラインで活動していた。なお、今回の調査では男性のみが対象となってしまったが、シリアの大学を修了した女性たちがイスラーム教育を行っているという言及もあった。もう一点は、日本国外にルーツをもつ人々である。マレーシア、パキスタン、モロッコなど、出身はさまざまであった。各イスラーム関連施設で教育を担うのは圧倒的に後者であり、日本語を母語とする教育者は限られているようであった。ゆえに日本育ちの、日本語を母語とする子供たちの教育に問題を抱えている、という発言も見受けられた。
 ② 生徒
 本調査では、10代後半から20代後半の男女に聞き取りを行った。今回の対象者は日本育ちで日本語を母語とする者のみであった。彼らの多くがモスク等に頻繁に通っており、10代の調査対象者のほとんどはクルアーンやアラビア語の勉強のためにモスク等の施設に通っていた。20代の調査対象者は、主にコミュニティ形成やイスラームに関する情報交換のためにイスラーム関連施設に関わっている人々であった。
 ③ 教材
 10代までの子どもたちにはアラビア語学習、イスラームの生活についての学習など、その時の内容に合った教材(主にプリント)が配布され、それに沿って学習をしていた。内容はその施設独自のものもあれば、日本で一般に出版されているものも含まれていた。20 代以上になると、基礎的な学習よりも、イスラームを生活の中でどのように実践するのかを学びたいと考える人が多く、米国のイスラーム機関(Bayyinah institute, Yaqeen institute, Zaytuna college等)がYouTubeや書籍、ポッドキャストで配信している内容を自主学習している場合がほとんどであった。

今後の展開

 本調査では、日本におけるイスラーム学習における教育者側の特徴、そしてそれに伴う言語の問題、さらに学習者の年代による学習内容と目的の多様性が明らかになった。今回の調査における問題点が2点挙げられる。一点目は、とくに日本人(ここでは日本語が母語の)女性の教育者への調査がほとんどできていなかったことである。母数が少ないのももちろんだが、表に出ていないため、コミュニティの深層まで調査を進める必要があるようだ。二点目は調査対象者の偏りである。今回の調査において、20代以上の方はほとんどが大学を卒業もしくは在籍しており、また、モスク等へのアクセスが比較的容易な地域に在住している。日本での教育が十分に受けられなかった人や、イスラーム関連の施設へのアクセスが限られている人に関しては本調査から取りこぼしてしまっている。以上の点に配慮しつつ、今後も同様のテーマについて調査を進めていく。

参考文献

 三木英編.『異教のニューカマーたち――日本における移民と宗教』.森話社.東京.
 ―――・櫻井義秀.2012.『日本に生きる移民たちの宗教生活』.ミネルヴァ書房.京都.

  • レポート:大森 美紀(2021年入学)
  • 派遣先国:(日本)愛知県名古屋市など
  • 渡航期間:2021年8月4日から2021年9月24日
  • キーワード:イスラーム、ムスリム、教育、課外学習、在日外国人、モスク

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