近代教育と牧畜運営のはざまで――ケニア、コイラレ地区における就学の動機――
対象とする問題の概要 1963年に英国からの独立を果たしたケニアでは、国家開発のためのさまざまな教育開発事業が取り進められてきた。例えば、2003年に初等教育無償化政策が導入され、それによって子どもの就学率が急速に増加した。また近年では、…
インドでは野外排泄が社会問題となっている。野外排泄が続く要因として、経済的要因、政治的要因、社会的要因など様々な要因が考えられるが、トイレを「ケガレたもの」として忌み、避けるためトイレの使用を拒むことも、野外排泄を行う要因の一つと考えられている(Coffey & Spears, 2017)。本研究では、トイレのケガレ観念と密接に関係する清掃カースト研究から概観することで、インドにおいてトイレのケガレ観がどのように作用し人々の行動に現れているのか明らかにすることを目指す。
清掃カーストとは、清掃労働(道路・家屋の清掃、排水路・下水道の清掃、便所清掃、病棟清掃、ゴミの回収 や運搬、動物の死体の運搬・処理)を伝統的な職業として行ってきたカースト集団の人々であり、ヒンドゥー教の浄・不浄観念で最も不浄とされている清掃労働に従事してきたため、不可触民の中でも社会的に最下層に位置づけられている(鈴木、2015)。本調査では、屎尿処理労働を撤廃し、清掃カーストの尊厳と回復を目標として活動するNGO団体、Safai Karmachari Andolan(以下SKA)のデリーとテランガーナ州ハイデラバード市にある事務所を訪問し、聞き取り調査や資料収集を行った。SKAの活動に密着し、現在トイレのケガレ観がどのような問題を引き起こしているのかを明らかにすることで、トイレのケガレ観念について考察していく。
今回の調査で特記すべき点は二つある。
一つ目は、インドの変化である。SKAやインドの公衆衛生の研究者、都市開発を行う人々にトイレや清掃カーストに関する聞き取り調査をした際、インフラ整備により水洗トイレが導入され乾式トイレや野外排泄が減ったこと、トイレで排泄をする習慣ができ野外排泄が減ったことなど、多くの人々の語りから物質的・意識的な変化の強調を感じた。またその変化に伴い、SKAの主な課題も、従来の乾式トイレ撤廃や乾式トイレの清掃人への権利保障から下水道の清掃人の権利保障へと変化していた。下水道を手作業で掃除することは法律で禁止されているが、現在も清掃中に毒ガスを吸って亡くなる事件は続いている。2022年9月にデリーで下水道の毒ガスが原因で清掃人が亡くなる事件が起き、私もSKAのスタッフと共に亡くなった清掃人の家族を訪問した。SKAは今後、雇用側の違法行為を司法に訴え、残された家族の生活を保障するようだ。以上のように、トイレに関する物質的・意識的変化と共にSKAの課題も変化しており、インドの変化が見て取れた。
二つ目は、変化していない部分である。下水道清掃者は毒ガスで意識を失っても早急に対処すれば助かる可能性がある。だが、誰も汚いから助けたがらないのだという。様々な側面が変化してもなお、排泄に関連するケガレは何かかしらの形で否定的な観念として続いており、結局のところ、SKAの問題の変化も問題が形を変えて現れているだけのようにも思われる。つまり、表面的な部分は変化しても、トイレに関する何からの否定的なケガレ意識は存続しているように感じた。
トイレや清掃人に関する問題はケガレ観だけでは説明できない、多くの要因が複雑に重なり合って問題が生じている。その他の要因についても研究を進めるにあたって調べる必要がある。また、今回の調査では、インドのトイレや清掃カーストの問題改善のために活動している人々に聞き取きを行っており、その意見には偏りがみられる。一方で当事者である清掃カーストの人々と話す機会を多く設けることができなかった。そのため、今回得られた人脈を活かして調査の幅を広げていくことで、トイレのケガレ研究を進めていく。
鈴木真弥. 2015.『現代インドのカーストと不可触民』慶應義塾大学出版会.
Coffey, D. & Spears, D. 2017. Where India goes: abandoned toilets, stunted development and the costs of caste. Noida: HarperCollins Publishers India.
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