京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

オンラインイスラーム市場の変容――マレーシアを事例として――

Lazadaマレーシアでのスタジオ風景

対象とする問題の概要

 スマートフォンの普及により、オンライン市場が発展しているマレーシアにおいて、近年ではSNSとE-commerceを合わせたソーシャルコマースが流行している。また、そこではイスラーム的商品の販売が活発に行われており、これらの広告塔となっているのが、ムスリムインフルエンサーである。
 彼らの発信力により、ムスリマファッションの代名詞となっているモデストファッション、ラマダン用に部屋を装飾するラマダンデコなどの新しい流行が広まっており、マレームスリムのイスラーム観に影響を与えている

研究目的

 本研究の目的は、E-commerceやソーシャルコマースにおけるマーケティング戦略において、どのように彼らのイスラーム観が反映されているのかを明らかにすることである。また、このマレームスリム達のイスラーム観の変化はどのような社会や文化的背景の影響を受けているのかを明らかにし、イスラーム市場全体のイスラーム的価値という概念の移り変わりを解明する。さらに、イスラーム的価値の移り変わりを解明することで、イスラーム市場は今後どのような変化を遂げていくのかを考察する。

クルアーンのポスターを販売する書店

フィールドワークから得られた知見について

 Lazadaマレーシアにて8/10から9/14の内計10回程、本社オフィス併設のライブ配信スタジオにて、実際にどのように配信で商品販売やセールの宣伝が行われているのか見学した。ソーシャルコマースを中心としてイスラーム的な商品を販売しているSopan Warisan・The Selamah・Sirruhu Hijabの代表やマーケティング部にマーケティングやSNS運用に、どのように彼らのイスラーム観が影響しているのかインタビュー調査を行った。調査では、現在マレーシアは、SNSから様々なE-commerceサイトへ誘導し購入へ促すという仕組みが主流になりつつあるという事が判明した。また、広告塔とするインフルエンサーは、フォロワーの多さではなく、地元愛着型のムスリムインフルエンサーへ依頼する方が、親近感・信頼感が得られ、購買に繋がるという回答が得られた。さらに、行事や独立記念日のセールでイスラーム的商品の購入率が増加するが、セールへの関心は、マレーシア政府の政策が影響していると考えられていた。商品の傾向調査からの知見は、イスラーム的商品は三種類に分類出来ることである。①歴史的に変化した商品、②礼拝製品、③新しく生まれた商品である。①は、歴史的に現代以前から存在し、時代に合わせて形やデザインが変化した商品(方位磁針→アプリ)。②は、現代以前から存在するが、現在でも用途や形に変化がない商品(お祈り用マット)。③は二つに分類され、③-ⅰは、技術発展により、これまでになかった商品が商品化した商品(Zikrを数える→ZIkrカウンター)。③-Ⅱは、商業的戦略により新しく誕生した商品(ラマダンホームデコ)である。特に、③-Ⅱからは、消費者であるムスリムが商業的戦略により新しく生まれた流行や商品にも、イスラーム的価値を見出しているという事が明らかになった。また、新たな物にイスラーム的価値を見出すということは、社会にイスラームが浸透している証拠であり、マレームスリム達のイスラーム観が変化しているという証である。

反省と今後の展開

 フィールドワークから、マレーシアのライブ販売の傾向や、イスラーム的商品は3つに分類することができ、中でも商業的戦略により新しく作られたイスラーム的商品が存在することという二点の発見が得られた。この事から、商業的戦略により商品化されたイスラーム的商品はいつ頃から、どの企業などが中心として発信や宣伝しているのか、商品化された後、どのようにムスリムの生活の中に馴染み、今では一般的なイスラーム的商品だと捉えられるようになったのか疑問に感じた。この点について新たに調査し、博士予備論文の執筆及び、今後の研究に活かしていきたい。

  • レポート:川端 真緒(2022年入学)
  • 派遣先国:マレーシア
  • 渡航期間:2023年8月1日から2023年9月18日
  • キーワード:イスラーム、オンライン市場、マレーシア

関連するフィールドワーク・レポート

ウガンダ北部におけるうなづき症候群患者の日常生活と社会実践

対象とする問題の概要  アフリカにおけるてんかんへの医学的な研究は一定の蓄積があるが、てんかん患者の社会面を記述した文献はほとんどみられない。タンザニアで医師をしていたアール [1] は、タンザニアで彼女が診療した地域のてんかん患者は村人か…

マレーシアにおけるイスラーム型ソーシャルビジネス――その社会的起業の実態と傾向――

対象とする問題の概要  本研究の対象は、東南アジアで活発化しているイスラーム型ソーシャルビジネスである。特にマレーシアに注目して研究を進める。マレーシアでは、10年程前から社会的起業への関心が高まっている。2014年には社会的起業を促進・支…

インドネシア大規模泥炭火災地域における住民の生存戦略 /持続的泥炭管理の蹉跌を超えて

対象とする問題の概要  インドネシアは森林火災や泥炭の分解による二酸化炭素の排出を考慮すれば、世界第3位の温室効果ガス排出国となる(佐藤 2011)。泥炭湿地林の荒廃と火災は、SDGsの目標15 「陸の豊かさも守ろう」に加え、目標13 「気…

モザンビーク北部ニアサ州における住民の取水と水利用 /水の選択に影響を及ぼす要因

対象とする問題の概要  世界で安全な水にアクセスできない人の二人に一人がサハラ以南アフリカに住む。2030年までに全ての人々が安全な水にアクセスできるというSDGsの目標達成のためには、サハラ以南アフリカにおける水不足の解決は重要課題である…

手作りおもちゃの世界的な分布と地域ごとの特徴に関する研究

研究全体の概要  世界各地でみられる手作りおもちゃには普遍性がある一方、地域や時代によっては特殊性が存在する。本研究の目的は、愛知県日進市に位置する世界の手作りおもちゃ館の館長への聞き取り調査から、手作りおもちゃの地域ごとに共通する特徴およ…