京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

野生動物の狩猟と地域の食文化に関する研究――ラオス北東部におけるツバメの狩猟活動について――

ツバメを捕える罠と猟師が日差しを避ける小屋

対象とする問題の概要

 経済発展の著しいラオスでは、市場経済化の中心は外国企業・外国資本である一方、副業として行われる自然資源の採集活動は農村部の貴重な現金収入源となっている。ラオス北東部シェンクワン県で活発に行われるツバメの狩猟は、地域固有の資源の事例として挙げられる。しかし、近年ラオスでは野生動物狩猟に関する法整備や規制を訴えるNGOの活動が活発化していることや、SNSの普及による個人間でのツバメの売買が増加し、当該地域で完結していた狩猟と消費の様相に変化が生じていると考える。先行研究から狩猟の規模は非常に大きいと考えられるが、その採集方法、採集されるツバメの種類、食利用など含めた全体像は明らかになっていない。また、ラオス政府が定める野生動物狩猟に関する法律では、ツバメは絶滅の危機はないものの、その利用が管理されなければいけない生物として定められているが、狩猟活動がツバメの個体数に与える影響の有無は明らかになっていない。

研究目的

 本研究の目的は、ツバメの狩猟活動について、当該地域の文化、自然環境、社会状況を含めた包括的な視点からその変遷と全体像を明らかし、ひいてはラオスにおける社会変化が人々の資源利用へ与える影響を検討することである。対象地のラオス北東部シェンクワン県は、首都ビエンチャンから400kmほど離れたところに位置し、標高1000メートル以上の高地であり、複数の少数民族が暮らしている。1960年代に勃発したインドシナ内戦において、アメリカ軍により大量の爆弾が投下され、終戦後も直接的な不発弾の被害だけでなく、農地の荒廃など、負の遺産として地域住民に大きな影響を与えてきた。このような地域社会の生態的環境と文化や歴史を踏まえ、狩猟活動におけるこれまでの変遷と、著しいラオスの社会変化の影響を明らかにすることで、地域社会の視点から適切な自然資源利用について検討することができると考える。

市場で販売されるツバメ漬け

フィールドワークから得られた知見について

 本調査では、ツバメの狩猟活動の概要を明らかにするため、8月と10月にシェンクワン県のプークート村とポンサワン郡での参与観察及び猟師への聞き取り調査を行なった。以下、本調査で明らかになった2点である。
1)ツバメの狩猟活動
 今回の調査で確認された狩猟方法は二通りあった。どちらも囮のツバメを使用するが、一つは網を使い、もう一つはとりもちを用いた猟法である。10月の最盛期には、1日に500羽以上のツバメが採れることもあるという。聞き取り調査において方名で確認できたツバメの種類は5種類であったが、実際に見ることができたのは2種類であった。また、ツバメの狩猟を行っているのは、主にタイ・プワンと呼ばれる人々であることが分かった。タイ・プアンの人々にとっては昔から貴重な食料獲得手段や現金収入源であるため、ツバメの狩猟に適した場所は、重要な財産として親から子へ受け継がれてきたという。
2)ツバメの利用方法
 採られたツバメは、羽を取り除き、塩や唐辛子などで調味し、3日ほど漬けておく。漬けたツバメは、丸ごと焼いたり、揚げたりするほか、バナナの皮で包んで蒸す「モック」と呼ばれる方法で調理される。市場では、羽が取られ調味された状態のツバメが多く販売され、価格は種類によって異なっていた。ラオス国内でも、ツバメはシェンクワン県の地域独特の食べ物と認識されており、お土産として買われることも多い。
 以上の結果から、ツバメの狩猟は、季節性の強い資源利用であり、狩猟を行う民族も限られており、ほとんどが副業として位置付けられている資源利用であることが分かった。しかし、航空写真では広い範囲に無数の罠の設置場所が確認でき、調査を行った市場でも大量のツバメが販売され、地域全体として大規模に行われている狩猟活動であることも分かった。

反省と今後の展開

 今回の調査では、ラオス語の言語能力が聞き取り調査に十分でなかったことと語学研修に多くの時間を割いたため、狩猟活動の概要を捉えるのみに留まり、具体的な数値やデータで狩猟活動の規模を明らかにすることはできなかった。また、ツバメの種類や生態に関する知識が不足していたため、目視や聞き取りから得られる情報からツバメの種類を同定することが困難であった。継続的なラオス語の学習と、ツバメの生態に関する理解を深める必要がある。今後の展開として、具体的な調査村を決定したのち、定量的な調査によって狩猟活動の規模や現金収入などの実態について定量的な調査を行い、狩猟活動の生態的な影響や生計手段としての位置付けを明らかにしたい。また、インタビュー調査によって狩場の継承や内戦直後の狩猟活動の状況などを把握し、ツバメの狩猟活動を通したラオスの人々の自然環境と社会変化への適応の実践を見たいと考える。

  • レポート:佐々木 恩愛(2023年入学)
  • 派遣先国:ラオス
  • 渡航期間:2023年8月7日から2024年3月8日
  • キーワード:野生動物、狩猟活動、食文化、副業

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