京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

開発がもたらした若年層の価値観の変化について―インド・ヒマーラヤ ラダックを事例に―

写真1 半農半牧畜の伝統的な村の生活。山の雪解け水を生活用水として使用している。

対象とする問題の概要

 ラダックはインド最北部に位置する、4000m-8000m級の山々に囲まれた高標高、乾燥地帯である。このような地理的特徴から、ラダックに住む人々は伝統的に、互いに協力し合い、自然資源や動物資源を持続可能な形で利用し生活している。また、彼らはそのような伝統的な生活を愛し、彼ら独自の文化にも誇りを持っていた。
 しかし近年、ラダックの伝統的な生活の中にも近代化の波が押し寄せてきていること、それに加えて地球温暖化などの環境面の変化も訪れたことで、彼らの生活や価値観には変化が生じている。本研究では、現代ラダックでの生業や教育、開発といった活動に着目し、それらが若年層の価値観の変化にどう影響を及ぼしているのか明らかにする。

研究目的

 本研究の目的は、村での生業や教育、近年導入されている開発活動などに着目して、当事者へのインタビューや参与観察を通じて、インド・ヒマーラヤ地域の若者の将来や生き方に関する価値観の変化を考察することである。

写真2 ice stupa(氷の仏塔)。 完成すると10-20mほどの高さになるこの仏塔は、生活用水が不足する夏期まで残り続け村に農業用水を供給する。

フィールドワークから得られた知見について

 今回のフィールドワークでは主に①文献収集 ②調査地に関する定量的データの収集 ③参与観察 ④村人へのインタビューを行った。以下では主に③と④を通して得られた成果を記す。
③参与観察
 街に近い村と山間の村、世帯数にも差がある複数の村で参与観察を行うことで、同じラダック内でも言語や文化習慣、生業に細かな違いがあることを確認し、また短期間ではあるものの彼らの生活サイクルを記録することもできた。
④村人へのインタビュー
 3つの村において、10歳未満、10代、30代、40代、50代、60代の村人にインタビューを行った。異なる世代の人々に対してインタビューを行うことで、彼らのラダックでのつながりを重要視する価値観について理解を深めることができた。
 特に、10代の村人と60代の村人へのインタビュー調査の結果から、ここ数十年の外部要因(環境や開発、教育など)に起因する変化と、宗教的背景や文化的背景などに起因する変わらない部分について考察することができた。
 ラダックにおいて若年層の価値観の変化について考察するにあたっては、開発が一つの糸口になる。例えば、伝統的な村の生活においては、生活水はヒマーラヤの山々の雪解け水を各戸にパイプで引っ張ってきて使用している。そのため、冬期は水が凍って使えない一方夏期は農業用水が不足したり、そもそも気候変動によって氷河が溶けていたりして、ライフラインが非常に不安定になっている。しかし2015年、ラダック出身のエンジニアによってice stupa(氷の仏塔)(写真2)が登場したことによって、水資源の安定供給が実現したばかりでなく、ice stupa自体が観光資源になり、それを各村で作るためのNGOが若年層の働き口にもなっているという変化が生じている。

反省と今後の展開

 反省としては、語学力の不足と調査手法、対象の偏りが挙げられる。前者について、現地語のラダック語は日本での事前学習が難しいので、現地に行ってから会話の中で学習したが、3か月半の渡航期間ではごく簡単な日常会話を理解するに留まってしまった。現地でラダック語-英語の辞書を入手してきたので、次回の調査に向けて継続的に学習していく。
 後者について、今回は村での参与観察とインタビューが主な調査手法だった。しかしながら、村での開発については、外部のNGOの活動や先進的な教育をしているオルタナティブスクールとの関わりも深く、そちらにも取材する必要がある。
 したがって、今後の展開としては村の内側の人だけでなく、外側の人にもインタビュー調査を行い、より厚いデータを得ることを目指したい。

  • レポート:秋田 日和(2023年入学)
  • 派遣先国:インド
  • 渡航期間:2024年9月20日から2025年1月7日
  • キーワード:インド・ヒマーラヤ、生業、開発

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