京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
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フィールドワーク・レポート

マダガスカル・アンカラファンツィカ国立公園における湧水湿地の立地環境と地域住民によるその利用

写真1 アンカラファンツィカ国立公園の 典型的な森林—水田複合景観

対象とする問題の概要

 度重なる焼畑の結果、今ではサヴァナが広がるマダガスカル共和国北西部で、アンカラファンツィカ国立公園には最後の大規模な森林地帯が存在する。ここでは、地域住民と国立公園局の協働のもと、森林と水田が広がる里山のような景観が形成されてきた。水田では、河川水や雨水に加え、特に湧水が重要な役割を果たしている。国立公園内では、森林の麓に湧水がみられ、ラフィアヤシ(Raphia farinifera)などが優占する湧水湿地が成立している。年間を通じて湧いている湧水は多く、そのおかげで人々は雨がほとんど降らない乾季においても稲作を営むことができる。しかしながら、近年国立公園内においても、焼畑・炭焼きが行われ、森林が劣化しつつある [Percival et al. 2024]。湧水湿地は森林の水源涵養機能によって支えられていると考えられ、さらなる森林火災は湧水量の減少を招き、稲作に依存する地域住民の生活を脅かすおそれがある。

研究目的

 本研究の目的は、アンカラファンツィカ国立公園における湧水湿地の水文学的特性を解明するとともに、調査地での人々の生活において湧水湿地が果たす役割を明らかにすることである。さらに、得られた知見をもとに湧水湿地および湧水を涵養する森林の持続的な管理手法の構築を目指す。今回の調査では、昨年度に引き続き国立公園内のアンブディマンガ村に3カ月間滞在し、主に以下の調査を実施した。
・ポータブルpH・水質分析計を利用し、調査地の湧水湿地において簡単な水質測定を実施した。比較のために、河川水や井戸水の水質のモニタリングも実施した。
・レーザースキャナ測量機器(LiDAR)を使用し、調査地における農地周辺の微地形を測量した。調査地の林地においても、LiDARを使用した植生の調査を実施した。
・国立公園内外の複数の集落において、水利用に関する聞き取り調査や在来信仰に関する聞き取り調査を実施した。

写真2 調査地周辺図(「森林火災の回数」はPercival et al. [2024]に基づく)

フィールドワークから得られた知見について

 簡易的な水質調査の結果、調査地における湧水のpHは約6.5前後の中性を示し、電気伝導度は100μS/cm以下と比較的低い値を示していた。このことから、調査地の湧水は栄養塩類に乏しい湧水であることが推察される。これは、栄養塩類がすでに溶脱されている古い土壌を通じて湧出するためであると考えられる。
 LiDARを用いた地形データの解析は現在進行中であるが、このデータによって、扇状地の微地形や、湧水を起点とする水路網、水田の高低差の把握などが明らかになりつつある。これらのデータは、湧水の挙動を検討する上で重要であるのみならず、人々が地形をどのように制御しているのかを明らかにする上でも有用である。
 水利用に関する聞き取り調査では、生活用水として何の水資源を選択しているか、および水田においてどのように水を分配しているかという点に焦点を当てた。前者に関しては、飲用水にはほとんど井戸水や湧水が用いられていると当初予想していたが、聞き取りの結果、井戸や湧水湿地が近くに存在しない世帯ではほとんど河川水が主に使用されていた。また、水田の水利慣行に関しては、水利組合のような水資源の利用に関して協議する組織は存在せず、水源への近さによる権力勾配も確認されなかった。堰の設置・解体や水路の切り替えは組織的な行動ではなく、個々の判断に基づいて行われている場合が多いにもかかわらず、水田に効果的に水を分配できていることが明らかになった。
 在来信仰に関する調査では、複数の集落で聖地(ドゥアニ)に関する情報を収集した。その結果、ほとんどのドゥアニが湖や湧水湿地といった水にかかわる土地に存在し、山中にあるドゥアニもまた、水を生み出す場として認識されていた。一方で、キリスト教や西洋医学が広まるにつれて、ドゥアニ信仰やドゥアニをつかさどる伝統医に対する信頼が薄れつつある現状も判明した。

反省と今後の展開

 本研究は、湧水湿地に「聖地化」というプロセスが働くことによって、地域住民に湿地を保全するという規範意識が「在来知」として根付いてきたのではないかという仮説に基づいている。そして、「在来知」を「科学知」が補完することで、国立公園局と地域住民の双方にとって望ましい湧水湿地および森林の持続的な管理の手法を構築することを目標とした。昨年度は、植生や土壌と湧水の関係を調査し、今年度はさらに水質に調査の幅を広げた。しかしながら、今回の聞き取り調査からは、「在来知」の根幹となる在来信仰が人々に顧みられなくなりつつあるという実態も明らかになった。今後、地域の文化の変容が、人々の自然観に与える影響を注視していくとともに、研究の理論的枠組みと方法論を再構築していく必要もあるだろう。

参考文献

 Percival, J. E. H., Sato, H., Razanaparany, T. P., Rakotomamonjy, A. H., Razafiarison, Z. L., and Kitajima,
K. 2024. Non Fire-Adapted Dry Forest of Northwestern Madagascar: Escalating and Devastating Trends
Revealed by Landsat Timeseries and GEDI Lidar Data, PLoS ONE 19(2): e0290203.

  • レポート:岡田 陸太郎(2024年入学)
  • 派遣先国:マダガスカル共和国
  • 渡航期間:2025年7月2日から2025年9月20日
  • キーワード:湧水湿地、自然地理学、マダガスカル

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