アフリカ同時代美術とその表象:コンゴ人芸術家の美術活動に着目して/アール・ポピュレールの地域的表象
対象とする問題の概要 アフリカ現代美術は,『大地の魔術師』展(89年パリ・ポンピドゥセンター)を契機として欧米のアートワールドで大きく扱われるようになった。「黒人美術」「原始美術」における「原初」性「神秘」性のみの称揚といった批判に対応し…

インドは独立以来世俗主義を国是とし、多民族、多宗教、多言語国家である。この国家観を多くのムスリムが信じたことで、パキスタンとの分離独立を経た後でもなお国内に多くのムスリムが残り、ヒンドゥー国家でありながら現在でも世界第三位のムスリム人口を擁する国となっている。
しかしながら2014年以降、ヒンドゥー至上主義を標榜するインド人民党(BJP)政権が誕生して以来、国内での宗教対立が顕在化している。ヒンドゥー至上主義者による小規模かつ日常的な暴力によってムスリム社会への統制が常態化する中、ムスリムのみを例外とする市民権改正法(CAA)[1]の制定を筆頭に、彼らを排除した社会体制が着々と築き上げられ、法的な差別も進んでいる [中溝 2025]。また旧テロ防止法(POTA)の運用ではムスリムが標的とされることが多く、マドラサに通うことが有罪の証拠となる判例 [Singh 2006]も見られるなど、危機的状況は学問領域においても指摘されている。
[1] イスラーム系近隣諸国からの不法移民に対して、ムスリムでなければインド市民権を与える改正法
本研究は特にインドにおけるイスラームの教育機関であるマドラサに焦点を当てる。政府から近代教育の欠如、テロ養成所という批判を受ける中で、カリキュラムへの介入や学校の閉鎖という圧迫を受けつつも、スラムや貧困地域において無償で食事を提供し、学費も無償化するなど、貧困層のセーフティネットとして機能するマドラサの役割を明らかにする。本研究の目的はこれらマドラサが持つ特性を調査し、インドの世俗主義が今後も維持されうるかを検討していくことである。

今回のフィールドワークは二つの目的を持っていた。第一に、ウッタル・プラデーシュ州におけるマドラサの現状を確認すること、第二に、デリーにおけるムスリム社会を理解することである。そのためマドラサの運営に加え、日常的な宗教対立にも着目した。インド・ムスリムはデリーであっても集住し、ゲットーと呼びうる地域での生活を余儀なくされている。興味深かった点は、アッサム州やビハール州出身のムスリムが多く住むスラムにおいてもマドラサが存在していたことである。ほとんどのマドラサは渡航前の情報通り、クルアーン、ハディース、アラビア語に基づく教育を施しており、食費や学費も寄付金によって賄われていた。マドラサのその多くが貧困層であるインド・ムスリムの生活を保障する役割を担っていることを示している。
今回の調査で最も詳細に聞き取りを行った1888年創立の伝統校であるマドラサでは、コンピュータ教育や英数学の導入が実施されていた。宗教対立の高まりに伴うイスラーム教育への攻撃や批判をかわすための独自のカリキュラムであるが、それでもなお行政からは攻撃や嫌がらせが行われ続けているようである。またこのマドラサでも入学者の多くは必ずしも富裕層というわけではなく貧しい入学者も多いという。この点は先述のマドラサが持つ貧困層への生活の保障と重なる部分があるように思われる。
ジャミア・ミリア・イスラミアやアリーガル・ムスリム大学といったイスラーム系の国立大学においても国からの予算削減やイスラーム・アイデンティティに対する攻撃が行われている模様で、また彼らからはウッタル・プラデーシュ州における未登録マドラサへの閉鎖や破壊といった証言も得られた。
本調査は初めての現地調査であったために、今後の調査を進めていく上で多くの課題点を見つけることができた。第一に、語学力の向上である。スラムやマドラサで調査を行うにあたり、ヒンディー語の会話能力を習得する必要性を痛感した。第二に、研究計画の精密化である。マドラサへの聞き取り調査を行う中で、渡航前に抱いていた関心が必ずしも現地の状況と一致しているわけではないことを発見した。したがって研究計画を見直す必要がある。第三に、調査地域の拡大である。今回はデリーが中心であったが、調査を進めていく過程でラクナウやバラナシといった都市も興味深い対象であることを発見した。以上の点を踏まえ、今後の調査はより充実した意義のあるものとしたい。
中溝和弥. 2025. 「インド・ムスリムと民主主義」山根聡編『イスラームからつなぐ 第6巻 思想と戦略』東京大学出版会, 119-141.
Singh, U. K. 2006. The Silent Erosion: Anti-Terror Laws and Shifting Contours of Jurisprudence in India. Diogenes 212: 116-133.
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