京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

お金とシェアリングエコノミーの関係性――ニューカデに暮らす高齢女性の行動分析――

写真1 分け合って食べる子どもたち

対象とする問題の概要

 狩猟採集民サンは、しばしば他者と物を共有(シェア)する人々として知られてきた。古くは、リチャード・リーとアーベン・デヴォアが、狩猟採集で得た食料がキャンプ内の成員に平等に分けられることを記録している [Lee and DeVore 1968: 31]。しかし近年、政府による定住化政策や産業化による貨幣の流入によって、狩猟採集経済は破綻し、配給と年金に依存せざるをえない現金経済の世界へと足を踏みいれたことで、平等分配の基本原理は成立基盤を奪われ、価値体系そのものが根本的な変革を迫られている [田中 2016: 134]。一方、今村 [1993: 23]は、定住によってシェアリングの機能が変容しつつある現在、その儀礼的側面がより強調されることを主張する。義務ではなく具体的な対面的相互行為によっておこなうシェアリングが、他人とあらたな関係を再生していく力をはらんでいることを提唱しており、シェアリングの儀礼的でシンボリックな側面を見出している。

研究目的

 上記で示した経緯から、分配や協同の社会的次元をも含めたさまざまな対面的相互交渉による行為や物質の分かち合いを統御するシステムを「シェアリング・システム」と呼ぶ [今村1993: 21]とするならば、定住化と貨幣経済にともなう近代化が進行する中で、シェアリング・システムはどのように維持されているのか、その再編過程を定住化後の人々のお金の分配に焦点を当てることで明らかにしていく。具体的には、ボツワナ共和国のニューカデに暮らすグイ、ガナの人びとのうち、ある高齢女性(Daugwiおばあちゃん)を調査対象とし、彼女が毎月受け取る年金とその分配行動に焦点を当てる。受け取った年金は、どのようにコミュニティ内へと共有されるのか、さらには、さまざまな条件や環境下において、どのような外部要因が彼女のシェアリング行動を決定付けるのかについて調査をおこなう。

写真2 年金の支給場所に集う人びと

フィールドワークから得られた知見について

 年金は毎月1回、65歳以上の全ての人に現金で支給されるが、今回の調査で確認できたのは8月から11月の計4回である。調査の結果、Daugwiおばあちゃんがお金をシェアする相手の条件と彼女独自の分配方法を知ることができた。
 1つ目の条件は、受給者と「血縁関係にあること」である(例外あり)。食物を含む多くの物を共有する光景は、血のつながり関係なくさまざまな人間との間で頻繁に確認することができる。しかしお金は、おばあちゃんにとって誰とでもシェアできる物ではなく、渡す相手は彼女の血縁関係者のみに限定されている。そしてもう1つの条件は、「お金を手にする機会が少ないこと」である。しかしこれは、職についている人や毎月定額のお金を手にしている人が、彼女からお金を必ずしもシェアしてもらえないという意味ではない。血縁者であれば、たとえ仕事をしていてもお金をもらえる可能性は十分あり得る。重要なのは、お金を定期的に手にする機会が少ないことをシェアの優先事項とすることで、そうでない人間への分配額や頻度が圧倒的に少なくなるか、そもそもシェアのメンバーから除外されてしまう点にある。
 さらに、Daugwiおばあちゃんは2つの条件をもとに、シェアリングメンバーともいうべき人々の範囲を定めているようにみえる。そして、その中から毎月シェアする人間を代わる代わる順番に替えていくのである(例外あり)。1ヶ月3人程度の人間がワンセットとして選ばれ、毎月そのセットのメンバーが入れ替わる仕組みになっており、シェアする相手の顔ぶれはだいたい10人で固定されていることがわかった。彼女によれば、お金のシェアに条件を設けている理由はもらえる年金額が少ないからとのことであり、少ない予算だからこそ、毎月メンバーチェンジをおこなうことで、より多くのメンバーが均等にお金の分配にあずかれるような機会を提供しているのではないかと考えられる。

反省と今後の展開

 今回の初回調査では、1人の高齢女性によるお金(年金)のシェアリングの実践を確認することができた。具体的には、相手にお金を渡すための条件と、それをもとにした彼女のシェアリング方法である。しかし、おばあちゃんのお金の分配行動については、より詳細な調査をおこなうことができなかった。今後の調査項目としては、将来の見返り(恩返し)を期待しているから、今お金を渡しているのか、さらには、血縁者ではない人間が彼女にお金を渡してきた場合、彼はシェアリングのメンバーに入ることは可能なのか、などが挙げられる。人間同士のコミュニケーションや将来の不安、年金支給の遅延などさまざまな外部環境が、おばあちゃんのお金の分配行動にどのような影響をもたらすのかを詳細に明らかにすることで、彼女は経済合理性に基づいた行動を選択するのか、あるいは非合理的な要素が彼女の分配行動を決定づけているのかについてさらに分析していきたい。

参考文献

 今村薫. 1993. 「サンの協同と分配:女性の生業活動の視点から」『アフリカ研究』42: 1-25.
 Lee, R. B. and I. DeVore eds. 1968. Man the Hunter. Chicago, IL: Aldine Atherton.
 田中二郎. 2016. 「アフリカ狩猟採集民ブッシュマンの昔と今:半世紀の記録」『ヒマラヤ学誌』17: 127-137.

  • レポート:石川 航大(2025年入学)
  • 派遣先国:ボツワナ共和国
  • 渡航期間:2025年9月1日から2025年11月29日
  • キーワード:シェアリング、年金、高齢女性、経済行動

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