ヒマーラヤ地域における遊びと生業――Sermathang村を事例に――
対象とする問題の概要 私がフィールドとするヒマーラヤ地域は、「世界の尾根」とも呼ばれるヒマーラヤ山脈の影響を様々に受けている。そしてもちろん、そこに暮らす人々にも、気候や経済活動などの面で影響は及び、ヒマーラヤ地域には独自の文化や産業があ…
近年、金融の国際的な潮流のなかでイスラーム経済、イスラーム金融が注目を集めて久しい中、それらの注目はマレーシア、湾岸地域にとどまっており、報告者の着目するイランの実態に関する情報は多くない。また近年マイクロファイナンスへの注目が高まりつつあるが、その実践は発展途上にとどまっており、持続的に成立するシステムの模索が続けられている。そのような中、現代イランにおける独自の新たなイスラーム経済の動向として、イスラーム型のマイクロファイナンスの実践であるガルズ・アル=ハサネ基金が多数展開されており注目を集めている。ガルズ・アル=ハサネ基金とは、無利子で融資を行うイスラーム金融の手法の一つであるガルズ・アル=ハサネを用いて資本を融資する基金のことである。ガルズ・アル=ハサネ基金は預金者から資金を収集するにあたって宗教的、経済的インセンティブを用いる独自のメカニズムを有している。
本研究の目的は、イランのイスラーム経済の実態と独自の発展経路をたどり展開されたマイクロファイナンスの実践の形を、ガルズ・アル=ハサネ基金に注目し明らかにすることである。日本においては、イランのイスラーム経済に関する情報は多くあるとは言い難い。またマイクロファイナンスの実践面においてみられる課題への解決策も依然見られない状況である。そのようななか、報告者はイスラーム型マイクロファイナンスの実践であるガルズ・アル=ハサネ基金の実態に着目し、イランにおけるイスラーム経済の動向を明らかにするとともに、マイクロファイナンスの今後の発展を考えるうえで要となる要素を明らかにすることを目的に調査に取り組んだ。また報告者は基金の運営者に対する聞き取り調査及び、イスラーム経済、ガルズ・アル=ハサネ基金に関する文献収集を行った。
テヘランにあるガルズ・アル=ハサネ基金のうち7つに赴き、そのうち5つの基金の運営者からの基金運営の具体的情報やグラミン銀行を応用したマイクロファイナンスの新たな形、イランにおけるイスラーム経済などについての聞き取り調査に成功した。またそのうち一つの基金が発行しているガルズ・アル=ハサネやイスラーム経済、イスラーム法学に関する文献資料を10点入手することに成功した。またテヘラン大学の近くのエンゲラーブ広場周辺の本屋にて、ペルシャ語で書かれたイスラーム経済に関する書籍6冊、イランの銀行に関する書籍5冊、ガルズ・アル=ハサネ基金に関する書籍2冊、イラン経済やイスラーム経済に関する論文集を16冊、合計47冊の書籍を収集した。さらに、イランの中央銀行の調査機関で経済白書を発行している“The Monetary and Banking Research Institute”の研究者3人と面談し、ネットワークを築いた。その際、その研究者の方々からイランのイスラーム経済について話を聞くことや、その研究者が執筆したガルズ・アル=ハサネに関する論文45点、ワクフに関する論文3点を入手することに成功した。帰国後も最新情報や論文などを送っていただいている。またイランの銀行の経営する博物館3つ(セパー銀行の運営する博物館、中央銀行の運営する宝石博物館、メラット銀行の運営する博物館)に赴きイランの銀行の歴史やその内部に関する情報を得ることにより、イランの銀行に関する知見をより深めることができた。また、アメリカの経済制裁が再度開始された8月7日の経済新聞の入手や、現地での生活を通じて、経済制裁下のイランの経済の実態に関する知見を深めることにも成功した。
今後の展開としては、本研究から得られたイランの経済やガルズ・アル=ハサネ基金などに関する知見を用いてイランのイスラーム経済やマイクロファイナンスに関する理解を深めていくことを目的に研究を続けていく予定である。具体的には博士予備論文の執筆に向けて、今回の渡航を通じて入手した文献資料の内容理解を深めるとともに、現地の基金の運営者や研究者の方々からの聞き取り調査の内容をもとにイランにおけるイスラーム経済や、ガルズ・アル=ハサネに関する分析を行っていく。またそれにあたって、世界的なイスラーム経済・イスラーム金融の研究動向や、マイクロファイナンスの実践に関する視座を踏まえたうえでイランのイスラーム経済及びガルズ・アル=ハサネの研究を行っていく予定である。
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