京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ハルツームにおける環境NGOの行動様式と廃棄物問題

回収されず散乱する廃棄物 (ハルツーム、ムジャヒディーン地区2017年10月19日)

対象とする問題の概要

 スーダンの首都ハルツームは人口が急激に増加している。2.4%という高い人口増加率に加え、よりよい教育や医療などを求めて地方から人びとがハルツームにやってくる。紛争や飢饉などによる移民や難民も多く流入している。人口は過去10年で200万人以上増加し、現在の人口は約780万人、一説によると900万人を超えるともいわれている。そのため人口増加に対する都市インフラが追い付かず、町中に廃棄物があふれ深刻な問題となっている。居住環境が悪化する中で、この問題を解決しようと、若者たちを主体とする環境NGOがいくつも生まれてきている。しかし、行政、住民、NGOの三者の活動に連携が取れていないのが現状である。

研究目的

 ハルツームの廃棄物問題を改善していくためには、行政と住民との協力が不可欠である。そのためには、ハルツームで暮らす人々や組織の、廃棄物に対する行動様式や意識に着目する必要があるだろう。また、住民の6割以上は若者であり、若者の動向を無視することはできない。本研究では、行政による廃棄物管理機関と、若者によって組織されたNGOに焦点を当て、それぞれがハルツームの廃棄物問題をどのように捉えているのかを、行動様式の差異に注目して明らかにする。

ミーティングを行う環境NGOのスタッフたち (ハルツーム、スークアラビー 2018年1月18日)

フィールドワークから得られた知見について

 今回のフィールドワークでは、主に環境NGOへの参与観察と聞き取り調査をおこなった。あわせて、ハルツーム州による、廃棄物管理の資料および登録されているNGOのデータベースへのアクセスを試みた。
 ハルツームにおける環境NGOは、若者が主体となって運営しているものがほとんどであり、代表者は国際機関によるトレーニングを受けた経験があったり、欧州の大学出身者であったりと、外国との関わりが強いということがわかった。海外経験のある代表者たちは組織力を強化するべく、キャパシティビルディングと称し、自分たちの得た知見を拡散・共有していた。その一方で、地域住民と直接関わるような活動はほとんどしておらず、ハルツームの廃棄物問題を具体的に改善するための活動はあまり考慮されていないことがわかった。
ハルツーム州清掃管理局では、州の各地域でおこなわれている廃棄物の回収率、1日あたりの収集回数、ゴミの重さなどについての資料を集めることができた。職員とのインタビューでは、ハルツーム州における廃棄物管理の問題や歴史、地域住民や環境NGOとの関係や期待、今後の展望などの話を聞くことができた。
 ハルツーム州社会開発省では、登録されているNGOの数やカテゴリーについての資料を入手することができた。資料は10年分ほどしか管理されておらず、それ以前のものは手付かずのまま、倉庫で山積みにされていた。2018年1月現在、データベースを作るプロジェクトが進行中で、2018年内に完成する予定だという。ここでも職員にインタビューをおこない、把握しきれていないNGOや汚職問題、未登録だが精力的に活動している若者の慈善団体、期待していることと現実とのギャップについて話を聞くことができた。

反省と今後の展開

 今回の調査の反省点としては、ビザの延長手続きに想定以上に手間取ってしまい、調査する時間が大幅に減少してしまったことである。また調査対象が広範に及んだことで、ひとつひとつにかける時間が減り、断片的な情報しか入手できなかった場合があった。次回の調査ではこの反省点をふまえ、ビザの手続きが最小限で済む滞在期間にし、調査対象を環境NGOを運営する若者たちの活動にしぼって効率化をはかり、彼らの行動様式と地域に及ぼしている影響やネットワークについて重点的に調べていくことにしたい。

  • レポート:金森 謙輔(平成29年入学)
  • 派遣先国:スーダン
  • 渡航期間:2017年10月1日から2018年1月31日
  • キーワード:スーダン、ハルツーム、環境、廃棄物、NGO、行動様式

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