焼物を介した人とモノの関係性 ――沖縄県壺屋焼・読谷村焼の事例から――
研究全体の概要 沖縄県で焼物は、当地の方言で「やちむん」と称され親しまれている。その中でも、壺屋焼は沖縄県の伝統工芸品に指定されており、その系譜を受け継ぐ読谷山焼も県内外問わず愛好家を多く獲得している。 本研究ではそのような壺屋焼・読谷村…
ドイツの国民作家ゲーテは『西東詩集』においてペルシアの文学作品の影響を受けたことを如実に表している詩を詠んだ。火に飛び込んで自らを燃やす蛾を恋人に例えるというペルシア文学において有名なモチーフを援用したのである。この、火蛾のモチーフを好んで使った詩人の一人がセルジューク朝からホラズム朝期に活躍した詩人であり、その作品が私の研究対象にもなっているアッタールである。彼は、火蛾の例えを神秘主義と結びつけて、燃えていく蛾を神に恋い焦がれて自らを燃やしていく者の例えとして使用した。このような比喩表現や例え話を通して本来難解である神秘主義思想を巧みに表現することによって、彼は文学史上、偉大な神秘主義詩人の一人として数え上げられるようになった。彼および彼の作品に対する様々な観点からの研究は古今東西からいとまがないが、文学表現という観点から彼を研究するという方法はまだ始まったばかりである。
アッタールの作品を文学表現という観点から解読することが私の研究の目的である。彼の作品に登場する表現方法に着目して、彼が使っている文学における技巧を他の人物の作品における技巧と比較しつつペルシア文学史上に位置づけることを目標としている。しかし、文学においていわゆる文献学的手法や実証主義的手法と言われるものからアッタールを分析することには限界があるので、近年アッタール研究においても始められたように文学理論を参照しつつ彼の作品における表現方法を明らかにすることを目標としている。一方で、彼の作品の特色である神秘主義を文学という観点の下どのように位置づけるか(表現方法において思想というものをどのように位置づけるか)についても模索している。それらのことについての知見を得る始めとして、アッタールに関する先行研究、アッタールの諸作品およびペルシア文学の著名な作品に目を通すことをする。
今回のフィールドワークでは、書店巡りを主に行った。目的は、アッタールに関する先行研究、アッタールをはじめとするペルシア文学の著名な作品を手に入れることであった。基本的には、テヘラン大学前の書店街(古書店を含む)を廻り目当てのものを購入するようにした。下見の日を幾日か作り、どういうものが置いてあるか見て店員および店主に尋ねながら、さらに、自分の今後の研究と照らし合わせながら、購入するものを取捨選択し厳選した。また「テヘラン・ブック・ガーデン」という映画館が併設されている大型書店が文献を探しに行った国立図書館の近くに新しくできていたことを発見した。その場所において、大学前の書店街にはなくその存在を知らなかった最新の研究書を数冊購入した。渡航前に購入予定していたものも数冊あったのだが、予想しているより多くの未知の研究書が手に入ったのは今回の渡航における最大の成果である。
文学理論を用いたアッタールに関する研究は一人の学者によってなされてきたが、別の学者が構造主義、物語論、パースの議論を踏まえている研究書を出していることを、渡航を通して知り、イランの研究者の研究書の質の高さを改めてうかがい知ることもできた。
また、カウンターパートナーのテヘラン大学神学部のザルバーニー教授とも幾度も会う機会があり、ミトラ教とクリスマスの関係、弥勒信仰とイランの関係などの興味深い話を多く拝聴することができた。特に、イランの民族叙事詩である『王書』に登場するスィヤーウシュと『旧約聖書』や『クルアーン』に登場するアブラハムの物語の類似する点について、後者が前者からなんらかの影響を受けているのではないかという私の推測に対する後押しが教授から得られたことが教授との会話を通した最大の成果であった。
反省点は特にないが、強いて述べるならば目当ての文献が一冊発見できなかったことである。しかし、この文献はカウンターパートナーの教授も興味を持ち、私とは別にではあるが探した結果見つからなかったので、テヘランにおいて現存していないか、現存していても手に入れることができない可能性が高い。この文献が手に入らなかったことは大変残念であるが、それを補ってあまりある成果は得られた。
今後は、手に入れた文献を読み、咀嚼して、私自身の研究に役立てていきたいと考えている。また、文学理論を用いた自身の研究に対する自信を失いかけていたが、最新の研究書に後押しされる形になったので、この方向で改めて研究に邁進していきたいと決意を新たにした。ただ、最新の研究書を批判し分析することによって、文学理論を使うこと自体の問題点についても考察していかなければならないと思った。
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