京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ザンビア都市部におけるワイヤーおもちゃの製造と廃材および固形廃棄物の利用

Motokaと呼ばれるピックアップトラックのおもちゃ

対象とする問題の概要

 本稿は、ザンビア都市部の家内工業によるワイヤーおもちゃの製造と廃材の利用に関する調査報告である。ワイヤーおもちゃ(Wire toys)とは、銅、スチール、アルミなどの金属製のワイヤーを用いて乗物、動物、生活用品などのモノの様相を表現したおもちゃである。その起源はジンバブウェおよびその近隣諸国とされているが(Deregowski 1980)、Donlon(1999)では南アフリカが発祥とされるなど諸説ある。このおもちゃに関する先行研究には、おもちゃの使用材料に着目しその違いを説明した報告(Deregowski 1980)や、おもちゃを工芸品(art craft)と捉え、その成長と修正の歴史のヒントを示唆するような研究(Donlon 1999)が存在する。以上の諸研究は、どれも既製品の様相や使用材料に着目したものばかりであり、おもちゃの作り手がどのようにワイヤーおもちゃを製作し販売するかについて論じた文献はない。

研究目的

 本研究は、アフリカの一都市で家内工業としておもちゃを作り売り生活を送る、作り手の視点からワイヤーおもちゃ(写真1,2)の製作過程および販売についてその実態を明らかにすることを目的とする。上記目的より以下の3つのリサーチクエスチョンを導出した。
①作り手はどのようにおもちゃを製作しているのか
②作り手はどのようにおもちゃの材料を収集しているのか
③作り手はどのようにおもちゃを販売しているのか
 調査期間は2019年11月から2020年の2月までの88日間で、調査地はザンビア第2の人口を誇るコッパ―ベルト州キトウェの居住域である。本調査では、キトウェ市に居住するおもちゃの作り手数名からの聞き取りと、その製造作業に参加させてもらい、手押しの自動車やモーターバイクなど主に乗り物のおもちゃ(プッシュおもちゃ)を製作する過程を観察し、材料と製作手順を記録した。また、おもちゃの販売にも同行し、その実態を記録した。

モーターバイクのおもちゃ

フィールドワークから得られた知見について

 ①~③のリサーチクエスチョンに則って以下に得られた知見を報告する。
①作り手はどのようにおもちゃを製作しているのか
 今回協力してくれた全ての作り手が、コンビネーションプライヤ(以下プライヤ)を主の製作用具として用いおもちゃを製作していた。基本的にはこのプライヤを用いてワイヤーを屈曲・切断して乗物の形に成形する。おもちゃに用いられるワイヤーは大きく分けて2種類あり、ベンバ語でAmawireと呼ばれる直径が2mm以上のワイヤーで乗物のパーツを成形し、inkakiという直径1mm程度の細いワイヤーを巻き付けることでパーツ同士を連結させ、おもちゃを組み立てていた。また、作り手の中にはプラスチックや古布などを用いて装飾を施す者もおり(写真2)、プラスチックの接着に金属と炎を用いたり、針を用いて古布を縫製したりと、作り手によって使用する材料と用具にばらつきがあった。制作作業は基本的に作り手の自宅で行われており、作り手の中に常雇で働いているものは存在せず、おもちゃの販売だけで生計を立てていると言う者もいた。
②作り手はどのようにおもちゃの材料を収集しているのか
 おもちゃの主材料となるワイヤーはAmawire、inkaki共に産業プラントで働く友人や近くの金物屋(hardware shop)から、廃ケーブルから取り出した中古品を購入していた。本体やタイヤの装飾に扱うビニール袋やスナック菓子の袋、ペットボトルキャップなどのプラスチックは一部を除いて作り手の自宅付近の路上で拾われた固形廃棄物であった。
固形廃棄物の管理の不徹底は負の面が強調されることが多い一方で、これらの地域社会が排出した廃棄物を用いておもちゃを製作・販売することが、作り手の生計の一助を担う側面もあるようだ。
③作り手はどのようにおもちゃを販売しているのか
 主に路上の定点に商品を並べ販売する形を取っており、ガソリンスタンドの目の前、ポリスチェックポイントの手前など、自動車が減速する位置を狙って販売地点を選んでいた。

反省と今後の展開

 Amawireやinkakiなどのおもちゃの主材料となる中古のワイヤーを金物屋(Hardware shop)がどのように得ているのかについて、今回の調査では少数の業者にのみ聞き取りをした。今回の調査でキトウェ居住域を歩き回り100件以上のワイヤーを取り扱う業者を見つけたため、次回は彼らを対象に質問票調査を行いより多くのデータを得たい。また次回調査では、ワイヤー以外の材料についてもその発生元を明らかにするとともに、作り手の材料収集にも同行し、彼らがどのような判断基準で材料を選んでいるのかを調査する。
 その他、おもちゃの重量測定や材料となるワイヤーのEDX分析を行い、また作り手および買い手がおもちゃをどう評価しているのかを聞き取ることで、おもちゃそのものについての理解を深め、ワイヤーおもちゃが調査地周辺においてどのように認識されているのかを明らかにしていきたい。

参考文献

【1】Deregowski, J. B., 1980, Wire Toys in Africa South of the Sahara, “Leonardo,” Vol.13, No.3, pp.207-208.
【2】Donlon., Jon., 1999, Tradition and Change in the Wire Toys of Southern Africa, “Studies in Popular Culture,” Vol.22, No.1, pp.43-51.

  • レポート:川畑 一朗(平成31年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2019年11月18日から2020年2月14日
  • キーワード:ザンビア都市部、ワイヤーおもちゃ、固形廃棄物

関連するフィールドワーク・レポート

都市への移動と社会ネットワーク/モザンビーク島を事例に

対象とする問題の概要  アフリカ都市研究は、還流型の出稼ぎ民らが移動先の都市において出身農村のネットワークを拡大し濃密な集団的互助を行う様子を描いた。これらの研究は、人々が都市においてどのように結び付けられ、その中でどのように行為するのかに…

南アジアにおけるイブン・アラビー学派

対象とする問題の概要  本研究では、イスラームの代表的スーフィーであるイブン・アラビー(d. 638/1240)の思想が、南アジアにおいてどのように受容されてきたのかを明らかにすることを目指す。その際、19-20世紀インドのウラマー・スーフ…

観光が促進する地域文化資源の再構築と変容 /バンカ・ブリトゥン州の事例から

対象とする問題の概要  本研究の目的は、インドネシア錫鉱山地域における観光開発に着目し、観光開発を通して、地域文化がどのように再構築・変容され、地域の人々に理解されるようになってきたかを明らかにすることである。本研究の対象地であるバンカ・ブ…

沖縄県における「やちむん」を介した人とモノの関係性

研究全体の概要  沖縄県で焼物は、当地の方言で「やちむん」と称され親しまれている。県の伝統的工芸品に指定されている壺屋焼を筆頭に、中頭郡読谷村で制作される読谷山焼など、県内には多種多様な工房が存在し、沖縄の焼物は県内外を問わず愛好家を多く獲…

スリランカにおけるインド・タミル人清掃労働者の研究/差別に抗するマイノリティの日常実践

対象とする問題の概要  インド・タミルはスリランカに居住するタミル人のうち、英植民地時代に南インドから移住した特定のカースト集団をルーツにもつ者を指す。そして、その多くが紅茶等のエステート(=プランテーション)労働者であることからエステート…

復興期カンボジアの障がい者に対する国際援助政策の研究

対象とする問題の概要  今日のカンボジアの障碍者福祉は、1980年代の人道支援を源流とし、1991年のパリ協定を皮切りとした国際援助とともに形成されてきた。カンボジア政府は、2014年からと2019年からの4年間、障碍者戦略計画を掲げ、障碍…