京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

タンザニアの熱帯雨林におけるアグロフォレストリーの動態/アマニ地域における持続的な木材生産に着目して

遷移が進んだコショウ畑

対象とする問題の概要

 タンザニア東北部に位置する東ウサンバラ山の東斜面(以下、アマニ地域)では、豊富な雨を利用して屋敷地がアグロフォレストリーとして利用されている。20世紀初頭、ドイツ植民地政府はアマニ地域に広大な樹木園を開き、世界各地の植物を試験的に植栽していった。それには木材用樹木も数多く含まれていて、その生育特性や材の有益性が明らかになっていった。住民もそれを認知しながら、有用樹を選択的に自らの屋敷地にも植えていった。木材用の樹木は樹冠を被ったが、択伐によって部分的に陽が差す林床には香辛料、根栽類、野菜、薬草、果樹などの多様な植物が植えられ、人びとの暮らしを支えていた。このアグロフォレストリーは、早生樹の木材生産を基調とした混淆林であって、樹冠を構成する大木が毎年収穫されていく。すなわち、この屋敷林は林内の光環境がつねに変化し、それにともなって林床植物の配置や構成も移り変わるという特徴をもっていた。

研究目的

 19世紀末、現在のタンザニア大陸部を統治していたドイツ帝国は、雨に恵まれた東ウサンバラ山地の東山麓に「アマニ生物・農業研究所」を設置し、その後背山域に広大な樹木園を開いた。植民地政府が導入した樹木のなかには、風や鳥によって種子が拡散・自生していくケースもあった。それを帰化植物とみなす向きもあるが、地域住民たちはその旺盛な繁殖力に目をつけ、それらを屋敷地の主要構成樹として積極的に取り込んでいった。本研究では、アマニ地域にみられるアグロフォレストリーに注目し、樹冠を構成する樹木が継続的に伐採されることの意義を農業生態と人びとの暮らしの両側面から分析することにした。

村の伐採業者によっておこなわれる伐採

フィールドワークから得られた知見について

 屋敷地のアグロフォレストリーを地域住民の生活のなかに位置づけるために、まず調査地における生業、食生活、生計、土地利用の全体像の把握につとめた。
 ドイツ植民地政府が設置した広大な樹木園は、現在「アマニ自然保護区」としてタンザニア政府が管理していて、そこでの鳥獣の捕獲や樹木の伐採を厳しく制限している。調査村は、この保護区域に隣接している。保護区域の周辺は養水分に恵まれているものの、作物を荒らすヒヒやサルが多いため、主食のトウモロコシやキャッサバは森林や屋敷から離れた畑で単作、もしくはインゲンマメと混作している。屋敷の周辺では、軽食用としてバナナ・アメリカサトイモ(Xanthosoma sagittifolium)・キャッサバ(甘味種)・サツマイモ、副食用のキマメ・ヒユ・トマト、果物としてマンゴー・バナナ・パパイア、換金作物としてはコショウ・カルダモン・シナモンなどの香辛料、木材用に多くの外来樹が混植されている。ほとんどの世帯が主食用の畑と屋敷地の両方を所有していて、食料の大半を自給していた。ただし、家畜・家禽は少なく、干し魚とともに、動物性タンパク質は町の市場もしくは村の露店で購入していた。
 おもな現金収入源は、コショウと木材である。開墾当初は上記の作物を混植するが、最近は、コショウとその支柱木(マメ科のGliricidia sepiumやセンダン科のCedrela odorata)が大きく育つのにともなって、コショウの単作園に移行していく傾向がみられる。いっぽう、屋敷地に木材用の樹木を植えるのがこの地域のアグロフォレストリーの特徴である。聞き取り調査では、32世帯のうち25世帯が屋敷地に木材用の樹木を植えていた。8つの屋敷地に25×25mのコドラートを設けた毎木調査では、50種の樹木を確認できた。主要な樹種は、センダン科のC. odorata、Toona ciliata、クロウメモドキ科のMaesopsis eminiiなどであったが、これらはいずれもドイツ植民地政府がアマニ地域に導入した樹種であった。

反省と今後の展開

<反省>
 調査助手とのコミュニケーションに課題があったため、植林に関する住民の認識について十分な情報を得ることができなかった。また、屋敷地内の樹木の配置を作図できなかったため、この屋敷林の構造を平面図としてうまく描写できていない。
<今後の展開>
 次回は、前回の毎木調査した屋敷地において樹木および林床の植物(薬用・飼料など)に関する調査を継続するとともに、屋敷地内の詳細な樹木地図を作成して、作物の配置や、作季ごとの畑(林)の動態を捉える。また、コミュニケーション能力を高めつつ、人間関係を醸成して、住民への聞き込み調査を充実させていく。とくに、樹木に関する住民の知識、植林にあたっての樹種の選択、育て方、伐採、製材、出荷の方法、収入については丁寧に調査する。さらに、おもな収入源となっているコショウの流通について、導入の歴史から近年の動向まで調査する。

参考文献

【1】栗原久定. 2018. 「ドイツ植民地研究」東京都 合同会社パブリブ228-310.
【2】Hans, G. 1990. Tanganyika Forestry Under German Colonia Administration, 1891-1919.Forest & Conservation History, 34 (3): 111-159.

  • レポート:小林 淳平(平成30年入学)
  • 派遣先国:タンザニア
  • 渡航期間:2018年8月2日から2019年1月7日
  • キーワード:アマニ自然保護区、キャッサバ、コショウ、センダン科樹木、ドイツ領東アフリカ

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