現代インドネシアにおける社会変容とイスラームの知の担い手/イスラーム的市民社会論の観点から
対象とする問題の概要 インドネシアのイスラームは、人類学者Martin van Bruinessenが「保守転化」と呼んだように、民主化以後その性質を大きく変化させた。この「保守転化」は、インドネシア社会における民主化や市場化、グローバル…
2017年現在、在タイ日本人の数は7万人を超え、これは米国、中国、豪州に次ぐ規模である 。タイでは、1980年代後半から日系企業の進出が相次ぎ、日本人駐在員が増加している。加えて1990年代以降は日本経済の低迷や生活様式の海外志向を背景に、主に若年層の日本人現地採用者や起業家も増えている。また同時期から、老後に豊かな暮らしをタイで実現する日本人ロングステイヤーもみられるようになった。
このように在タイ日本人の属性は多様化しており、属性や活動目的の違いに応じた日本人関連組織が設立されているため、日本人コミュニティの内部では分節化が進んでいる。各日本人関連組織はタイ社会との接点でそれぞれ差異があり、地域住民との交流や地域行政との生活上の問題の解決など様々な交渉を行っている。日本人コミュニティの分節化とホスト社会との交渉は、在タイ日本人の現地社会への適応戦略を考察する上で重要な視点といえる。
本研究の目的としては以下の2点が挙げられる。1点目は在タイ日本人コミュニティの分節化の過程の解明である。先行研究では、各地域における個別の在タイ日本人コミュニティに焦点を当てているが、その分節化に関する研究は十分な蓄積がない。したがって在タイ日本人コミュニティの分節化を検討するために、まずタイの日本人集住地域(チェンマイ、シラチャ、バンコク)における日本人関連組織の把握を行う。
2点目はホスト社会との交渉の実態の解明である。在タイ日本人コミュニティが属性や活動目的によって分節化するにつれて、各日本人関連組織のタイ社会との関係性にも差異が生じるものと推測した。したがって各日本人関連組織の会員を中心に聞取り調査を行い、タイ社会との接点について比較を行う。これによって属性など在タイ日本人の社会的背景に応じたタイ社会との結びつきの度合いについて検討することができる。
今回のフィールドワークでは、ジェネラルサーベイとしてタイの日本人集住地域である3都市(チェンマイ、シラチャ、バンコク)を中心に、日本人関連組織の活動を把握した。表1はタイにおける主要な日本人関連組織である。
チェンマイにおいては、駐在員を中心とする組織であるチェンマイ日本人会とロングステイヤーを中心とするチェンマイ・ロングステイ・ライフの会、またチェンマイの隣県チェンライにおいて、タイ人配偶者を持つ日本人永住者の組織であるチェンライ日本人会を中心に、組織の設立の経緯や活動内容に関する聞取り調査を行った。ロングステイヤーの中でも、1年未満の比較的短期の滞在を繰り返す者と、ビザの更新を繰り返して年単位におよぶ長期滞在を行う者がいることが分かった。
シラチャは、東部臨海工業地域に進出する日系企業の駐在員を中心とした日本人会が存在する。しかし企業会員が多く、駐在員家族(妻子)や起業家向けの活動が少ないため、特に趣味や娯楽といった同好会活動は日本人会に属さない小規模サークルが運営していることが明らかとなった。さらに近隣のパタヤにおいても小規模な日本人会が発足し、現地在住の日本人同士の交流を目的に活動を行っている。
バンコクは、単体で5万人を超える日本人が居住しているが、タイ最大の日本人関連組織であるタイ国日本人会でも会員が7000名程度である。公的な日本人組織に加えて、大学の同窓会や同郷出身者の集まりである県人会、スポーツや音楽といったサークルなど、様々な私的組織が存在している。こうした私的組織は、日本語フリーペーパーやインターネットの掲示板にて会員を募集しており、日本語のメディアの重要性と日本人会という公的組織を通さない日本人コミュニティの層の厚さをうかがい知ることができた。
今回のフィールドワークでは、チェンマイ、シラチャ、バンコクの各都市における在タイ日本人関連組織の活動内容の把握を行うことができた。これは今後の研究の基礎となる情報であり、各組織の比較や属性に応じた在タイ日本人の適応戦略の検討の際の材料となる。一方で、滞在時間の短さや自身のタイ語能力の低さが原因で、タイ社会との交渉に関しては十分な調査を行うことができなかった。したがって、今後の展開としては、今回のフィールドワークで得られた人脈を活かしてより詳細な聞取り調査を計画し、タイ語学習などの基礎的な能力を養いつつ、在タイ日本人のタイ社会との関係性という点に着目してさらなる検討を行うことを考えている。
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