国立図書館と国立文書館を拠点とした文献調査と、エコカでの現地調査を実施した。文献調査では、ナミビアの独立以前まで遡って土地利用と土地政策の歴史に関する資料の収集を行った。ナミビアは1884年から1915年までドイツの植民地下にあり、1915年から1990年までは南アフリカの委任統治下にあった。また、植民地化以前には宣教団がすでにナミビアを訪れ、活動を開始していた。こうした歴史から、当時の政府や宣教団の残した公的な記録や年次報告書、役人同士の私信までもが国立文書館に保存されている。本研究では、近隣民族で農牧民のオバンボ、宣教団、(植民地・委任統治)政府を主なサンを取り巻く外部社会として設定しており、これらのアクターが辿った歴史に関する資料の収集を行った。また、渡航期間中に独立以降2回目となる全国土地会議が開催された。会議は終日中継されていたためテレビを通じて会議の様子を観察したほか、会場へ出向き、会場外で小規模なデモ活動を行う人々を観察した。会議では先住民の土地返還要求の受け入れや土地不足による外国人農地の接収など、今後の政策を左右する重大な決定が下された。 エコカでは、GPSを用いた土地利用調査と聞き取り調査を行った。Ministry of Land Reformの役人やヘッドマンへの聞き取り調査も実施した。サンを対象に食事内容やオバンボの下での労働に関する調査、生業に関係する聞き取りを行った結果、サンとオバンボは日常生活レベルで密な関係を構築していることが改めて裏付けられた。また、オバンボを対象に世帯の基本情報や農地面積の聞き取りを行った結果、エコカでは土地不足が深刻な問題となっていることが明らかになった。エコカには新規に割り振る土地が残されておらず、親から独立して土地を得るためには村外へ転出する他ない状況であり、既存の農地も十分ではないとの意見が過半数を占めていた。サンは定住政策の一環としてオバンボと比較して大規模な土地を割り振られているものの、その土地を農地有効利用できておらず、代わりにオバンボが不当に開墾していることが昨年の調査で明らかになっている。今回の調査では土地の不当な利用という危険を冒す要因を分析するデータを収集することができた。
【1】Takada, A. 2015. Narratives on San Ethnicity: The Cultural and Ecological Foundations of Lifeworld among the !Xun of North-Central Namibia. Kyoto: Kyoto University Press.