京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ニジェール国ニアメ市における 家庭ゴミの処理と再生

国道一号線を環状交差点へ向かうゴミ収集の手押し車

対象とする問題の概要

 ニジェールの首都ニアメでは2019年7月のアフリカ連合総会など国際イベントに合わせてインフラ整備が急速に進んだ。首都の美化は政治的優先課題に位置づけられ、政府が主導する大プロジェクトとなり、街路に蓄積していた廃棄物は行政によって頻繁に回収されるようになった。しかし、これまで市による家庭ゴミの収集は不定期かつ限定的であったため、住人は収集人に料金を払って廃棄を委託してきた。ニアメ市では人口増加とともにゴミの廃棄量も増加しつづけている。フォーマル・セクターであるニアメ市による廃棄物管理とは別途に、住人が費用を負担し民間セクターが廃棄物を処理する仕組みが存在する。日常的に住人は捨てる前に使用可能な材の再利用や販売をしており、それがゴミの減量につながっている。このような住人やインフォーマルな収集人による廃棄物と資源の物質循環のサイクルを明らかにすることは、市全体の廃棄物管理システムにとって重要である。

研究目的

 本研究の目的は、ニアメ市におけるゴミ処理のされ方に着目し、都市における廃棄物にかかわる人びとの活動と社会関係を明らかにすることである。ニアメには行政による廃棄物管理、民間セクターによる廃棄物の回収ビジネス、住人によるリサイクルなど各々に機能がある。行政が廃棄物の処理を担当する先進国のシステムにならうあまり、民間セクターと住人には一部しか公的な役割が認められていない。ニアメの廃棄物処理の全体像を把握するうえで、三者の役割とローカルな資源・廃品回収による物質循環のサイクルを調べ、ニアメ独自の廃棄物処理の特徴と課題を詳細に検討することが必要である。
 今回の渡航では、人びとが廃棄物をどのように利用し価値を与えているか、リサイクルの実態を調査した。2017年より継続して調査しているゴミ収集人たちの仕事に同行し、最近の収入や社会関係について聞き取りを実施するとともに、インフラ整備後の変化を観察した。

家の庭にて天日干しされるご飯の残り

フィールドワークから得られた知見について

(1)建設ラッシュによる都市の急速な変化と影響
 国道1号線は、北へマリ、東へはカメルーン国境まで続くニジェールの大動脈とも言える道路である。2019年以降、ニアメ市内で国道1号の空港からグラン・マルシェなど商業の中心地までの区間で8車線化の工事が行われた。それまで道端にひしめいていた露店は道幅拡張のために強制的に撤去された。
 ゴミ収集人に2020年に完成した拡幅工事の影響を聞くと、横断に環状交差点を使う必要があるものの、収集ルートは以前と変わらないという。むしろ手押し車を押しやすいコンクリート舗装は歓迎されていた。露天商が激減した国道1号線沿いにはゴミ収集を頼む顧客が減り、収集人は客を探すことなく廃棄場に向かうようになった。
 政府は幹線道路の維持に力を入れており、側溝と路面の清掃が定期的に続けられている。住人が側溝に洗濯や調理の排水、あるいはゴミを捨てることはコンクリート蓋の整備、そして市の職員による取り締まりによって難しくなった。主要道路の美化プロジェクトにより、廃棄物をめぐる住人の慣行は大きく変化しようとしている。
(2)都市住人が収入を得るリサイクル
ニアメ市で排出される家庭ゴミに有価物が少ない理由は、それが各世帯において選別され資源として扱われるためである。住人が携わる有価物の保管や加工、利用、販売のプロセスが明らかになった。食品については住人自身が主食の余りから干飯を作り、再び食べるか親族に送るか、あるいは、野菜くずも含めて家畜用の飼料として販売している。缶や電器など金属は鉄くず回収業者に買い取られ、PETボトルやガラス瓶は、ジュースやガソリンなどの液体が入れられ再利用される。木材や紙、プラスチックは燃料として利用される。
 これらの容器や包装などを溜めて販売し、家計の足しにしているのは女性たちである。回収業者や日用品に加工する職人、仲買人などが廃棄物から日用品に再生させる物質循環サイクルの全体像を明らかにしていきたい。

反省と今後の展開

 ニアメではインフラの整備とともに警官による交通違反とテロ対策の取り締まりが厳しくなっている。街中での写真撮影や、メモへの書き取りは時と場所を選んだ。そこでGPSログ記録と了承してくれる人だけにインタビューを続けた。調査対象とした収集人や手押し車オーナー、職人、住人、資源回収人も少人数からの聞き取りとなったのが残念である。
 ニアメ市コミューンIVの清掃部長や道路清掃婦の集団、手押し車を大量生産してきた溶接工、牛のために残飯を回収する牧畜民など今後の調査につながる出会いもあった。次回は市の環境・都市衛生局に調査を申し込むつもりである。市は側溝の掃除に男性、道路清掃を請け負うNGOは主に女性と若年男性を雇用している。道路清掃の仕事に同行させてもらうことができたが、さらに一歩進んで彼女たちがこの仕事をする経緯や困難などを聴き明らかにしたい。収集人の収入減少の実態について論証を深めるため引き続き調査したい。

  • レポート:青池 歌子(平成29年入学)
  • 派遣先国:ニジェール国
  • 渡航期間:2019年10月13日から2020年2月26日
  • キーワード:若者、出稼ぎ労働、住人、都市化、廃棄物、資源、リサイクル

関連するフィールドワーク・レポート

マダガスカル・アンカラファンツィカ国立公園における保全政策と地域住民の生業活動(2018年度)

対象とする問題の概要  植民地時代にアフリカ各地で設立された自然保護区のコンセプトは、地域住民を排除し、動植物の保護を優先する「要塞型保全」であった。近年、そのような自然保護に対し、地域住民が保全政策に参加する「住民参加型保全」のアプローチ…

シリア難民の生存基盤と帰属問題の研究(2017年度)

対象とする問題の概要  国民国家制度はこれまで「国民」の生存基盤と帰属問題を保障してきた。しかし、国民国家制度が変容する中で様々な限界が露呈し、数々の難民問題を生み出す一方で、それに対して不十分な対応しかできないでいる。 特にシリア難民問題…

キャッサバ利用の変化と嗜好性からみるタンザニアの食の動態

対象とする問題の概要  キャッサバは中南米原産の根菜作物であり、現在世界中でさまざまに加工・調理され食べられている。タンザニアでもキャッサバはトウモロコシやコメとならんで最も重要な主食食材の1つである。キャッサバを主食としていない地域でも、…

ソマリ語による歴史的知識の生産――ケニア内ソマリ人を事例として――

対象とする問題の概要  元来、ソマリ人はアフリカの北東地域に国境をまたがって広く住んでおり、ソマリアの独立前後より、こうしたソマリア国外のソマリ人居住地域をソマリアへ併合する政治運動が、ソマリア内外で盛んとなっていた。しかし、1991年に国…

「自然-社会的なもの」としての水の利用・分配に関する研究――東アフリカ乾燥地の町における事例をもとに――

対象とする問題の概要  東アフリカの乾燥・半乾燥地域に分布する牧畜社会を対象にした民族誌的研究では、「水」は不足しがちな天然資源として捉えられてきた。そして、水不足の問題が人道的・倫理的な介入の対象となってきた。それゆえ、この地域を対象にし…

都市における相互扶助実践――ケニア共和国におけるソマリディアスポラの事例から――

対象とする問題の概要  ソマリディアスポラ[1]は、多くが1991年以降、ソマリア内戦の影響でアフリカの角のソマリ地域外に移住してきた。彼らの相互扶助実践については、親族ネットワークを介した商業活動や送金を中心に、主にアフリカ・欧米諸国での…