Caring Bodies in Mobility: Filipino Immigrants in Japan and Their Work of Care
Research Background This study focuses on the care work of Filipino immigrants in Japan. For this fieldwork I looked at…
本研究では山梨県、埼玉県、長野県、東京都の1都3県にまたがる甲武信ユネスコエコパークに注目し、登録に向けて大きな役割を果たした民間団体や行政の担当者への半構造化インタビューや現地のNPO法人での参与観察などを通じて現在甲武信ユネスコエコパークが持つ可能性や課題について捉えることを目的としている。本調査を通じユネスコエコパークの設立から現在に至るまでに多様なステークホルダーが様々な思惑を持ちながら関わっていること、また県主導で設立されたユネスコエコパークにおいて地域の人々がその存在を知りながらも、その制度をどのように活用すべきか苦悩していること等が分かった。今後は甲武信ユネスコエコパーク内でモデル団体として認識され、地域資源を活用しながら活動を実施しているコア施設(NPO法人多摩源流こすげ等)での参与観察を重ね、甲武信ユネスコエコパークが目指す順応的ガバナンスの在り方について明らかにしていきたい。
著者はケニアの自然保護区での調査を予定していたが、新型コロナウイルスの影響で渡航が叶わず、国内に存在し「自然と人間の共生」という同じ理念を掲げる自然保護区、ユネスコエコパークへとフィールドを変更した。ユネスコエコパークはユネスコの人間と生物圏(MAB:Man and the Biosphere)計画の1事業ある生物圏保存地域(BR: Biosphere Reserve)の日本での通称である(本稿では以下BRと記載)。BRとは国内に10個存在し、そのうち本研究で注目する「甲武信」の登録年は2019年と最も新しい。これまで国内のBRは認知度が低い、活用に向けた議論や持続可能な開発に向けた取り組みがほとんど行われていない等の問題を抱えてきた。本研究ではそうした問題を踏まえつつ、甲武信ユネスコエコパークの登録までの合意形成の過程や現地の順応的ガバナンスの様子、地域のコア施設等に注目し、甲武信ユネスコエコパークが持つ可能性と課題について明らかにすることを目的としている。
今回の調査では「甲武信」の登録運動で中心的役割を果たした民間団体や行政の担当者、観光地でのヒアリング、コア施設であるNPO法人などで参与観察を行った。調査を通じて明らかになったことは大きく分けて3つある。1つ目は2019年の「甲武信」の登録に向けての動きは2014年に民間団体から起こり、多様なステークホルダーを巻き込みながら最終的に後藤斉前山梨知事の公約として実施されたということである。後藤前知事は就任当初の公約として甲武信ユネスコエコパーク登録を掲げ、滞在型の観光客を増やしたい、と語っている。2つ目は「甲武信」に関わるステークホルダー間で活動に向けた合意形成の場や協働の機会があまり設けられていない、ということである。「世界遺産は価値を保存し、BRは価値を創造する」と言われるように、地域社会の多元的な価値観を重要視し、資源管理の社会的な価値観を地域ごと、時代ごとに変化させる順応的ガバナンスがBRには不可欠である。しかし調査を通じてステークホルダーごとに「甲武信」に対するイメージは大きく異なっており、地域住民などによる制度の積極的な活用がほとんどないことが明らかとなった。ある土産屋の店員は「登録後に観光客が増えることを期待し、新しいお土産品を開発したが、特に登録前後で変化はない」と語っていた。こうした状況の大きな要因として新型コロナウイルスの影響やトップダウン型の管理体系などが考えられる。3つ目は上記のような状況でありながら、BRが掲げる理念である「自然と人間の共生」に即した地域の実践は多く存在する、ということである。山梨県北都留郡小菅村に存在する「NPO法人多摩源流こすげ」は多摩源流に位置する小菅村の特性や魅力に注目し、他地域の大学や企業と連携しながら源流大学などの魅力的なプロジェクトを実施し、地域活性化を目指している。その活動内容はBRが目指す「保全機能」「学術的研究支援」「経済と社会の発展」の3つの機能を満たしており、「甲武信」の運営を担う山梨県はこのようなコア施設をBRの活動として積極的に広報し、かつ制度の活用ができる環境を整えていく必要がある。
今回の調査を通じて「甲武信」では他の多くの国内BRと同様、その制度の活用に苦悩していることが明らかとなった一方、NPO法人多摩源流こすげに代表されるようなBRの理念を反映した取り組みを実践しているコア施設が各地域に存在していることが明らかとなった。今後は時期をずらしながらそうしたコア施設でフィールドワークを重ねて「自然と人間の共生」に関連した活動について記録しつつ、国内のBRの取り組みと比較することで「甲武信」が目指す順応的ガバナンスの在り方について考察していきたい。また筆者の本来のフィールドはケニアであるため、本調査で得られた知見をもとにケニアの自然保護区に関わるステークホルダーや合意形成の手法、順応的ガバナンスの様子についても比較していきたい。
岡野隆宏. 2012. 我が国の生物多様性保全の取り組みと生物圏保存地域 『日本生態学会誌』62:375-385.
田中俊徳. 2012. 特集を終えて:ユネスコMAB計画の歴史的位置づけと国内実施における今後の展望 『日本生態学会誌』62:393-399.
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