ラオスにおける障害者の実態に関する研究
対象とする問題の概要 ラオスでの障害者数(5歳以上)は、2015年時点で約16万人と全人口678万人の2.8%を占めており、不発弾事故、先天的遺伝要因、感染症、交通事故など様々な要因で障害をもった障害者が生活をしている[1]。このような障…
本研究の目的は、歴史的な開放性と現代的な閉鎖性がせめぎ合う路上空間における公共空間の利用と「根源的ストリート化」の動態を明らかにすることである。そこで、大阪市西成区のあいりん地区で行われている「泥棒市」を事例に、西成特区構想によって一斉摘発を受けた露店商たちがどのように他性を取り込みながら公共空間を利用して創発的実践を行なっているのかを調査した。本研究から泥棒市の露店商たちの多くが経済的に困窮しているわけではなく、営利目的以上に他者と関わる機会を求めてやってきていることが分かった。そこには「上からの視点」では捉えられない、露店商として生きる人々の語りから明らかになっていく「あいりん地区」という空間に対する彼らの認識そのものに創発的実践を行う契機が存在した。そうした自己限界の中で「自己を他者化」してきた露店商たちは、さらに新たな自己限界状況下にある人々の「自己を他者化」させていく。
泥棒市のある大阪市西成区は、西成特区構想によってジェントリフィケーションの兆しが見られ「閉じられた空間」を形成しつつある一方で、一度解体された露店商の復活などによって「開かれた空間」を創発している。先行研究では西成特区構想を排除としてのジェントリフィケーションではなく包摂としてのサービスハブ論によって説明される必要があると言及されてきたが、ホームレスや日雇い労働者が議論の中心にあり、2015年の一斉摘発された泥棒市を事例にした研究蓄積はない。さらに「包摂/排除」の二元論的な「上からの視点」による議論に終始しており、露店商たちの「下からの視点」に基づく主体的な実践の様相を捉えられていないと言える。したがって本研究では参与観察と露店商に対する聞き取りを主とした人類学的調査を実施し、あいりん地区の露店商たちがどのように道路を中心とした公共空間を利用しながら創発的実践を試みているのかを明らかにしていく。
本調査から得られた知見は、露店営業の目的が経済的利益を得ること以上に他の露店商や顧客と関わり合うための「自分の居場所」として機能しているという点である。多くの露店商は経済的に困窮しておらず、肉体労働者や特掃従事者、年金受給者によって構成されており、露店での利益は小遣い程度にしか考えていない傾向にある。従来のスクウォッター研究では住居に基づいた「物質的な」生きるための場として不法占拠を捉えてきた傾向にあるが、泥棒市における公共空間の不法占拠は極めてサードプレイス的に行われ、「非-物質的な」生きるための場という性格を有する。このように泥棒市が機能してきた背景には「あいりん地区」という場所が全国から様々な「他者に語れない過去」を持つ人々が集結し、それを互いに語り合わないことを了解していることに起因していると筆者は考察する。露店商たちは「他者の過去を知らない=社会的地位や身分を判断できない」からこそ、目の前の他者を「今」の人柄の魅力や雰囲気でどのような人物かを判断し、結果的に誰にでも門戸が開かれたレヴェラーな空間を構成してきた [オルデンバーグ 2013:70]。そのことは露店商や「おっちゃん」によって語られた「ここにいる人たちはみんな平等だ」という言葉に裏付けられている。そうしてあいりん地区に受け入れられた露店商たちによって、無法地帯にも思える「自由」な空間としての泥棒市が形成され、それは現状に満足できず自由を求める若者や妻に先立たれ孤独感を感じる人々を惹きつけて、新たな露店商としての活動へと駆り立てる。この新たな露店商たちは仕方なく流れ込んできたわけではなく、自己限界状況にいる者による主体的実践としての不法占拠を通じた「自らが生きる場」を創り出している。こうして維持されていく「あいりん地区」という空間は今後も新たに人々を惹きつけ、彼らによってさらに「自らの生きる場」が形成されていくであろう。
今回の調査期間に二人の露店商が取り締まりを受けたが、2015年の一斉摘発ほど大規模なものではなく、毎朝8時前に巡回する警察も声かけ程度しか対応しないという状態であった。しかし旧あいりん総合センターの建て替え工事が実施されると、泥棒市に対する排除的な側面が一層浮かび上がってくると予想され、その前後に再調査を行うことで排除の対象となる露店商たちによる創発的実践をより深く捉えることができるだろう。筆者はネパールにおける自転車を用いた移動販売商人としてのモバイル・スクウォッター(可動性不法占拠民)と公共空間の利用が主な研究関心であるが、あいりん地区では類似した商人はあまり観察されなかった。そこで今後の展開としては、不法占拠民の「固定/非-固定」という観点からネパールの可動的に路上空間を利用する商人との比較検討することで、スクウォッター研究に対して新たな視座を提示することが可能であると期待している。
コルナトウスキ、ヒェラルド 2020「新自由主義・ジェントリフィケーション概念の的確さを問う:サービスハブ論を中心に」『空間・社会・地理思想』23巻、pp.173-180
関根康正 2018「ストリート人類学という挑戦」関根康正(編)『ストリート人類学:方法と理論の実践的展開』、風響社、pp.15-29
水内俊雄 2020「新自由主義/ジェントリフィケーションに向き合って:序言」『空間・社会・地理思想』23巻、pp.165-172
オルデンバーグ、レイ 2013『サードプレイス:コミュニティの核になる「とびきり心地の良い場所」』、忠平美幸訳、みすず書房
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