京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

駅がアフリカにもたらす近代都市経験――ガーナ・クマシの事例研究――

写真1 クマシ・セントラル・マーケット付近の線路跡

対象とする問題の概要

 クマシはガーナ共和国内陸部アシャンティ州に位置する、同国第二の人口を有する都市である。クマシは17世紀以来アサンテ王国の首都として発展してきたが、沿岸部を植民地化した大英帝国との競争に敗れ、1896年に英領ゴールドコーストに組み込まれた。植民地化後、クマシの都市としての役割は政治の中心からカカオ輸出を中心とする経済活動の拠点へと比重が移行し、1903年の鉄道開通をはじめとして都市の近代化と拡大が進展し、1957年のガーナ独立を経て現在に至る。本研究は近代都市クマシの形成と発展の過程の解明を目指す歴史研究である。

研究目的

 本研究は、植民地化によってもたらされた、あるいは押し付けられた、新しい技術や文化が、アフリカ人一般住民にどのように認識され、利用され、浸透したのか考察することを目的としている。クマシを研究対象とするのは、植民地化以前から都市社会が明確に存在した地域であるため、新しい技術や文化の導入前後での現地社会の連続性や断絶性を検討しやすいと思われるからである。植民地化を契機にクマシに導入された事物の顕著な例として鉄道を当面の研究対象とすることにしたが、渡航中に映画産業にも対象を拡げた。

写真2 クマシ市街地の映画館廃墟

フィールドワークから得られた知見について

 今回主な調査地としたのはガーナ国立公文書館(PRAAD)のアクラ本部とクマシ支部であり、それぞれで所蔵史料の閲覧とデジタルカメラによる複写を行った。
 第一に、植民地期のクマシの発展と拡大に関する定量的情報を入手した。PRAADは英領ゴールドコースト全体の報告書はもちろんのこと、クマシが含まれるアシャンティ植民地、クマシ管区(district)等下位の行政区分の年次報告書も断続的にではあるが所蔵しており、こうした史料からクマシの都市人口、周辺の鉄道や道路の発展、出入りする品物の種類や量の変遷などを定量的に分析することが可能となった。またクマシに関する定期刊行物として他には、市議会にあたるKumasi Public Health Board (1925-43年)やKumasi Town Council (1943-54年)の月例会議事録、街の衛生管理に関するクマシ管区裁判所の記録等を入手し、クマシ市政の事業とその変遷についても分析が可能となった。
 第二に、植民地期にクマシにもたらされた特定の事物に関する史料を収集した。当初から主要な題材としていた鉄道については、1890年代末から1930年頃にかけてのゴールドコースト鉄道の年次報告書、鉄道運行に関する行政官の書簡や図版等を公文書館で入手した。1970年代に頻繁に鉄道を利用していたクマシ在住の男性に聞き取りを行い、この時期における鉄道利用の実態の一端を垣間見ることができた。また調査中に興味を持った映画産業についても同様に、植民地期の映画の検閲や映画館の営業に関する文書を公文書館で入手した。クマシの映画館廃墟の周辺で聞き取りを行い、植民地末期におけるアフリカ人ビジネスマンの映画産業参入について、次回調査に繋がる情報を得ることができた。

反省と今後の展開

 今回の調査では史料の複写に専ら時間を割いたため、複写した史料の読解と分析を今後行う。まずはクマシの近代化と発展に関する定量的情報をデータベース化し、その後前節に記したような他の文書の読解に移行する。
 反省点は先行研究の読み込みに不足があったことである。今回の渡航に際しては鉄道の歴史に関する文献を優先的に読んだため、クマシの都市行政(特に植民地期後期のもの)に関する文献の読み込みが後手に回ってしまった。またガーナ史全般、あるいは西アフリカ地域史全般について勉強し、クマシの歴史をこれらの中に位置付ける努力も必要であると感じた。

  • レポート:本方 暁(2024年入学)
  • 派遣先国:ガーナ共和国
  • 渡航期間:2024年9月20日から2024年12月16日
  • キーワード:ガーナ、アフリカ史、鉄道、近代

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