今回主な調査地としたのはガーナ国立公文書館(PRAAD)のアクラ本部とクマシ支部であり、それぞれで所蔵史料の閲覧とデジタルカメラによる複写を行った。 第一に、植民地期のクマシの発展と拡大に関する定量的情報を入手した。PRAADは英領ゴールドコースト全体の報告書はもちろんのこと、クマシが含まれるアシャンティ植民地、クマシ管区(district)等下位の行政区分の年次報告書も断続的にではあるが所蔵しており、こうした史料からクマシの都市人口、周辺の鉄道や道路の発展、出入りする品物の種類や量の変遷などを定量的に分析することが可能となった。またクマシに関する定期刊行物として他には、市議会にあたるKumasi Public Health Board (1925-43年)やKumasi Town Council (1943-54年)の月例会議事録、街の衛生管理に関するクマシ管区裁判所の記録等を入手し、クマシ市政の事業とその変遷についても分析が可能となった。 第二に、植民地期にクマシにもたらされた特定の事物に関する史料を収集した。当初から主要な題材としていた鉄道については、1890年代末から1930年頃にかけてのゴールドコースト鉄道の年次報告書、鉄道運行に関する行政官の書簡や図版等を公文書館で入手した。1970年代に頻繁に鉄道を利用していたクマシ在住の男性に聞き取りを行い、この時期における鉄道利用の実態の一端を垣間見ることができた。また調査中に興味を持った映画産業についても同様に、植民地期の映画の検閲や映画館の営業に関する文書を公文書館で入手した。クマシの映画館廃墟の周辺で聞き取りを行い、植民地末期におけるアフリカ人ビジネスマンの映画産業参入について、次回調査に繋がる情報を得ることができた。