タイの考古学に対する批判的考察/遺跡の保存・活用の観点から
対象とする問題の概要 タイは、年間約500億米ドルもの国際観光収入を得る [1] 、まさに観光立国と呼ぶにふさわしい国である。荘厳な寺院や伝統芸能、ビーチなどのリゾートと並んで、タイ観光の目玉の1つになっているのは、スコータイやアユタヤー…
ナイロビ県ランガタ地区に位置するウフルガーデン(独立記念公園)で、新たな博物館の開設事業が進みつつある。この博物館の正式名称は定まっていないが、事業関係者によってしばしば用いられる「ヒロイズム・ミュージアム」という呼称を以下では便宜的に用いる。ヒロイズム・ミュージアムは、ケニアの国民的英雄の事跡を主題に取り扱う国立博物館である。独立前夜の改革運動の闘士のほか、芸術・スポーツ・学問・平和構築などの分野で活躍した人物や、卓越した政治的指導力・博愛主義・起業家精神などを発揮した人物が、全県から選抜され国民的英雄として称揚される。館の内外各所でケニアの国旗が掲揚され、国語のスワヒリ語と英語が併記されたキャプションが並び、ケニアの伝統的な楽器・武器・工芸品の数々が来場者を迎えるなど、国民意識を高揚させるような愛国的な演出がなされる予定である。2022年5月に完成を予定していたが、今なお建設中である。
ヒロイズム・ミュージアムはこれまで、ケニアの二大新聞であるデイリー・ネーションとザ・スタンダードによる報道や、テレビ局による宣伝予告映像の公開などを通じて、コンセプトや展示概要などが一般にも周知されてきた。一方、事業の構想や実施の過程に関する情報は質的にも量的にも不足している。この事業については、未だ学術的な研究は行われていない。本研究は、主にインタビュー調査と文献調査を通して、当該博物館の開設が構想された背景や、事業の実施過程の実情について把握し、開設事業に伴う課題を、その要因とともに明らかにすることを目指す。また、開設事業がどのようなアクターによっていかに推し進められてきたか明らかにすることを、第二の研究目的としている。
ヒロイズム・ミュージアム開設事業の実施にあたるタスクフォースには、主要国立博物館で実務経験を積んできたベテランの博物館職員が多く採用されていることが確認された。本調査では、ナイロビ国立博物館で勤務するタスクフォースの中核メンバーを対象としてインデプス・インタビューを実施した。インタビューの中で、特定の民族や地域について展示を通じて示すことが、ケニア国民の他民族・他地域に対する反感などの感情を喚起する可能性について問うた。問いに対し、展示物の数量やインパクトのバランスにも配慮し、47の全州を隈なく調査した上で、属性が過度に偏らないよう展示内容を慎重に決めていくと彼ら・彼女らは答えた。雇用する博物館職員についても、出身地・民族・性別・宗教・障害の有無や種別などに関して、属性が分散するよう選んでいきたいと彼ら・彼女らは語っていた。また、政権交代に伴い管轄の省庁が変わったこと、或いは拠出資金や手続きの流れがしばしば滞ることなどが、博物館完成が遅れている要因だとも指摘していた。
以上のようなインタビュー調査のほか、ナイロビ国立博物館にあるアーカイブと附属図書館で文献調査も実施した。ヒロイズム・ミュージアムが属するケニア国立博物館(NMK:National Museums of Kenya)という組織の年次報告書・タスクフォースの組織図や活動予定表・責任者名簿・メールの授受記録などを閲覧した。「国民的英雄とは誰か」、「英雄が各県でこれまでどのような方法で評価されてきたか」、「今後はいかに称揚されるべきか」などといったテーマで、各県で開かれた公聴会や会議の記録も入手できた。そのほか、ケニアのウフルガーデンと条件が似通っている他国の英雄広場において、どのような方法で英雄が称揚され、いかにその区域が運営管理されているかという先例を調査するため、ナミビア・ジンバブエ・南アフリカ・アメリカなどに調査チームが過去に派遣されたことも明らかとなった。
調査の水準と質を今後向上させるには、以下の2つの面での修練が必須だと考える。第1に、英語・スワヒリ語・その他の現地語の運用能力を伸ばしてインタビューイーや調査協力者とのコミュニケーションをより円滑にしていくことが必要である。第2に、ケニア史を丁寧に学習して、資料収集やインタビューで得たデータを多角的な視座から正確に分析できるだけの高度な文脈理解の能力を意識的に培っていかなければならない。以上のような修練に努め、ヒロイズム・ミュージアムの存在意義や今後果たしうる役割について考察と検証を継続していきたいと考える。
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