京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

トルコにおけるイスラーム的NGOによる難民支援――シリア難民に事例に――

写真1 インタビューさせていただいたİHHFatihの外観

対象とする問題の概要

 本研究では、シリア難民を事例にイスラーム的相互扶助を行うNGOを対象にトルコにおける活動とその社会的役割について探る。
 トルコは2011年以降、最もシリア難民を受け入れてきた。当初は「Guest(ゲスト)」として迎え入れてきたが、国内経済の不安定化が影響してシリア難民に対する反感が高まっている。シリア難民は2016年に就労が認められ、トルコ経済および労働市場に統合されてきている。しかし、依然として彼らの多くは収入が低く、経済的問題をもっている。
 このことから、そのような問題をもつ人々に対するイスラーム的相互扶助を基礎としたNGOによる経済自立支援の様態を調査し、解明する。

研究目的

 依然としてシリア難民の貧困問題が解決されていない現状とイスラーム的NGO[1]の支援には越境性があることから、①国内におけるイスラーム的NGOによる経済的自立支援の社会的価値と役割、②国際社会における影響、以上の2点を探ることが目的である。
 本調査では、一時保護下にあるシリア難民が最も多いイスタンブルにおけるシリア難民の最新の現状を明らかにすることを目的とした。並びに、参与観察とインタビュー調査を通してトルコにおける日常の中のイスラーム的相互扶助の実態を探った。


[1] イスラーム的NGOをここでは、「社会の草の根で難民支援活動を展開」し、「イスラームの信条を掲げる組織」と定義する [佐藤 2018: 10-70]。

写真2 Fatihモスク近くのバザール、地元住民が行き交う

フィールドワークから得られた知見について

 今回の調査では、シリア難民に直接会うことはできなかったが、難民支援を行うNGO団体に話を聞くことができた。また、語学学校に通いながらシリア難民が多いとされているイスタンブル[2]のFatih地区にて①参与観察と②インタビュー調査を行った。調査地区はイスタンブルの中でもアラブ人が多いとされているFatih地区で5日間実施した。
 ①では、トルコ語とアラビア語が入り混じり、他地区と比べて女性はヒジャーブ、男性はタギーヤやガラベイヤといったムスリムの服装をした人々が非常に多かった。そして、警察署やイスタンブル知事移民管理局、大学病院があり治安が良い印象を受けた。さらに、活気がありつつも、有名な史跡や自然が数多く存在しており穏やか雰囲気を感じた。一方で、シリア人を含めたアラブ人以外にも中国人も一定数住んでいることに驚いた。一つの通りに少なくとも3店舗の中華料理店を確認した。
 ②では、イスラーム的NGOであるİHHFatihの職員3名、同地区の西に位にするガジ(カラ)・アフメト・パシャ・ジャーミイの特別イマーム説教師1名[3]、シリア人移民(大学教員1名、書店経営者1名)、以上6名の協力を得ることができた。
 それぞれのインタビューを通して、間接的にシリア難民の現状を明らかにできた。加えて、トルコに住むシリア難民の多くは低所得層であり、平均月収の約7割以下の収入で生活しているという。特に、医療面の障壁があり、収入が低いことによって健康保険料の支払いが滞っている。収入が低くなる大きな要因としては言語教育にあるということが分かった。また、İHHについては彼らの活動資源は自由喜捨であるサダカ(ṣadaqa)であり、支援対象は宗教・民族・国籍関係なく支援を必要としている全ての人であることを確認できた。


[2] 2025年2月時点、一時的保護下にあるシリア難民はイスタンブル県(約43万人)が最多、2番目に多い都市はガジアンテップ県(約34万人)。
[3] この方はトルコ宗教庁およびガジ(カラ)・アフメト・パシャ・ジャーミイ (Topkapı Merkez Gazi[Kara] Ahmet Paşa Camii)の2つの機関に所属している。インタビュー調査は同モスクで実施した。

反省と今後の展開

 今回の調査では、直接シリア難民に会い、彼らの現状を聞くことができなかった点が課題である。しかし、シリア人移民から間接的にシリア難民の話を聞くことができた。特に彼らの紹介のおかげでシリア難民支援を行うNGOとの繋がりをもてたことが大きな成果ではないかと考える。
 他に、語学学校に3週間通い、初級クラスでトルコ語を学んだ。挨拶や簡単な日常会話ができるようになったが、調査が可能な言語レベルに達していないため、引き続き語学力向上に努める。加えて、シリア難民の多くはアラビア語話者であるためアラビア語も並行して学習を進めたい。
 今回は、調査を始めるにあたって事前準備が不足していた。偶然の積み重ねにより何とかNGOとの繋がりをもつことができたが、自身の語学力とNGOに関する知識がかなり不足していると感じた。今回の繋がりを大切にしつつ、次回の調査までに語学力向上と事前準備を計画的に行う。

引用文献

 Republic of Turkey Ministry of Interior Directorate General of Migration Management, Temporary protection. https://en.goc.gov.tr/temporary-protection27(2025年10月12日)
 佐藤麻理絵. 2018.『現代中東の難民とその生存基盤―難民ホスト国ヨルダンの都市・イスラー
ム・NGO』ナカニシヤ出版.

  • レポート:福原 雅実(2025年入学)
  • 派遣先国:トルコ共和国
  • 渡航期間:2025年8月18日から2025年9月26日
  • キーワード:イスラーム、NGO、難民、相互扶助

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