京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ベナンにおける教師雇用の現状 /Abomey-Calaviコミューンの小学校の事例より

1年生の道徳の授業の様子(2019/11/7撮影)
この授業ではテキスト等は使わず、
教師との受け答えにより、フランス語の挨拶を学んでいた。

対象とする問題の概要

 1990年に国連が「万人のための教育」を提起して以来、初等教育の拡充に向けた取り組みが世界的に続けられてきた。調査国ベナンでも2006年、「教育セクター10カ年計画2006-2015」(以下PDDSE)に基づき、初等教育の無償化が実施され、就学率は上昇した。一方で、ここ近年の量的拡大に伴う1教員あたりの生徒数の大幅な増加や、教室の不足など学習環境の悪化も指摘されている。また依然として、生徒の留年や中途退学も少なくなく、教師や教育自体の質についても課題が残されている。
 さらにPDDSEでは、初等教育における女子教育や女性教員の採用の強化も目指されていたが、ジェンダー間の格差は解消されていないとの指摘もある。

研究目的

 本研究の目的は、ベナンの学校教育に着目し、その実態を把握したうえで、就学することや、学校で得た学びが、生徒たちの将来にとってどのような意味をもつのかを検討することである。今回は、この目的をふまえた情報収集に努め、次回の渡航に向けた予備調査を行った。

4年生の課題ノート(2019/11/14撮影)
全ての教科の課題を一冊で行う。例えば右ページ上部は、フランス語の名詞を丸で囲み、動詞に下線を引く課題で、ページの左端に教師が赤字で10点満点の評価を書き入れている。

フィールドワークから得られた知見について

 今回はAtrantique県Abomey-Calaviコミューン [1] 内の小学校を公立、私立各一校ずつ訪問し、授業の観察、教師への聞き取りなどを行った。当コミューンの初等教育長によると、公立校は97、私立校は1000を超える [2] 。初等教育は6年制で各学校は6学年1クラスずつ、教師は各クラスに1人配置される。1クラスの生徒数が大幅に増加すると、グループ校として新たに1校増設する。実際に訪問した公立校は、3グループ、計18クラスからなる。生徒数は公立校が1クラス50人前後、私立校は20人前後と違いがみられたが、どちらも男女比に大きな偏りはみられなかった。
 調査時、新学期開始後1カ月以上経過していたが、公立校、私立校ともに教師が不足していた。5・6年生のクラス統合や、教師不在のクラスでは校長や他クラスの教師が、課題の指示を与えて対応する様子がみられた。また教師着任が遅れたクラスは進度に遅れがみられた。
 このような教師不足の要因には、現在小学校で資格保有者のみの採用へ移行中であることが考えられる。この資格取得のためのÉcolenormaleという教師養成校があることが分かった。1年目は講義中心、2年目は実習形式となり、修了するとCEAP(教員基礎適正証書)を取得できる。JICAの報告書[JICA2013]によると、養成校は全国で公立校が6校、私立校が9校で多いとは言えない。そのため、居住地域の近隣に養成校が無く、学費に加えて下宿費用が必要であり、資格取得に要する経費の確保に苦労したと述べる教師もいた。
 加えて、資格を取得し教師となっても、小学校教師は中等・高等教育機関の教師に比べ給与が低いことを指摘し、より給与の高い学校への異動を希望する教師もいた。職業選択肢として小学校教師がどのような位置づけにあるか疑問が残る。さらには、大学まで進学しても職が見つからず、職業訓練校などで技術や資格を身につけた方がよかった、教育を受け続けてきた意義が感じられないなど、一般教育と職業の接続を疑問視する見解も聞かれた。


[1] コミューンは行政上の最小単位。
[2] 私立は政府無認可の学校があるため、正確な数を把握できていないと思われる。

反省と今後の展開

 今回の調査では、想定以上に公用語フランス語での会話が困難だった。これまでに渡航者が学んだフランス語と現地で話されるフランス語で発音の違いもあったためか、会話がよく理解できない場面が多々あった。また、辞書を使いながら手書きで作成した質問リストを渡し、自分の知りたいことは伝えられたが、相手の回答を受けて柔軟に質問を重ねられなかった。今後は現地の発音の仕方も意識しながら学習を続けていきたい。さらに、今回ほとんど習得できなかった現地語フォン語の習得も心がけたい。
 また、上記のような状況により、聞き取り調査を実施できた人数が少なく、得られた回答が個人的な事情によるものなのか、教師という職業全体に共通することなのか傾向性がつかめなかった。加えて、生徒たちの学校外での生活についての情報収集も十分に行えなかった。以上の反省点をふまえ、次回の調査項目、フィールドでの日々の時間の使い方を再考したいと思う。

参考文献

【1】国際協力機構.2013.「ベナン共和国第五次小学校建設計画準備調査報告書」.1-1–1-12.

  • レポート:小寺 典子(平成31年入学)
  • 派遣先国:ベナン共和国
  • 渡航期間:2019年10月8日から2019年12月31日
  • キーワード:初等教育、教師不足、教師資格、職業選択

関連するフィールドワーク・レポート

近代教育と牧畜運営のはざまで――ケニア、コイラレ地区における就学の動機――

対象とする問題の概要  1963年に英国からの独立を果たしたケニアでは、国家開発のためのさまざまな教育開発事業が取り進められてきた。例えば、2003年に初等教育無償化政策が導入され、それによって子どもの就学率が急速に増加した。また近年では、…

ミャンマーにおける向都移動/エーヤワディー・デルタからヤンゴン・ラインタヤ地区へ

対象とする問題の概要  向都移動とは農村部から都市部へ向かう人口移動のことである。ヤンゴンでは現在、都市周辺部において工業団地の建設が進んでいる。その中で1番最初に開発され、ミャンマーにおいて最大の工業地区となっているのが、ヤンゴン北西部の…

シリア難民の生存基盤と帰属問題の研究(2017年度)

対象とする問題の概要  国民国家制度はこれまで「国民」の生存基盤と帰属問題を保障してきた。しかし、国民国家制度が変容する中で様々な限界が露呈し、数々の難民問題を生み出す一方で、それに対して不十分な対応しかできないでいる。 特にシリア難民問題…

エチオピアにおけるウマの利用 /南部諸民族州アラバ・コリトにおける牽引馬の労働と給餌の関係 に着目して

背景 エチオピアにはアフリカ諸国で最多の約200万頭のウマが生息しており、世界でも上位8位である。エチオピアにおいてウマが牽引馬として盛んに利用されるようになったのは、イタリア占領期(1936-1941)の頃からで、都市部やコーヒー栽培の盛…

ケニアのカカメガ森林保護区の近隣住民による薪の調達と使用に関する研究

対象とする問題の概要  熱帯雨林は地球上の陸地面積の数パーセントを占めるに過ぎないが、二酸化炭素の吸収源として重要視されている。さらに種多様性の高さで名高く、希少な動植物が数多く生息していることでも知られている。だが近年、乱開発によって面積…

「アイヌ文化」を対象とした民族展示の調査

研究全体の概要  本研究は、民族文化の表象をめぐる問題を考察していくために、博物館展示のあり方を比較しようとするものである。本調査では、日本の先住民族であるアイヌに着目し、その中心的居住地である北海道の博物館・資料館の展示を対象として「アイ…