京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

タンザニアにおける籾殻コンロの開発と普及に向けた実践的研究

籾殻の山

対象とする問題の概要

 タンザニアでは、都市人口の増加にともなってエネルギー需要が増大し、森林資源の減少が調理用燃料の慢性的な不足を招いている。その一方で、稲作の拡大によって大量の籾殻が産業廃棄物として投棄されるようになっている。この問題に対処するため、報告者は、戦前に日本で使われていた「ぬかくど」を参考にしながら、籾殻を燃料とする調理用コンロ(籾殻コンロ)をタンザニアの鉄工職人と開発することにした。
 これまでに籾殻コンロを試作し、試験的に販売したところ特定の消費者のニーズに適合することがわかった。しかし、職人たちはこの籾殻コンロの商品価値を認めるものの自ら主体的に製作しようとはしなかった。籾殻は無料もしくは低い価格で手に入るため低所得者層には確かなニーズが認められたが、彼らにはコンロを購入する経済的な余裕がなかった。また、生産者と消費者をつなぐ仲介者の不在など、持続的な技術開発には多くの課題も見つかった。

研究目的

 籾殻コンロを現地の鉄工職人(生産者)と共同開発し、それが地域の課題に対する有効な解決策として普及するかどうかを、使用者(消費者)との対話のなかから探ることを本研究の目的とした。具体的には、①現地で手に入る材料や知識、技術のレベルで籾殻コンロを製作することが可能か、②完成した試作品は地域住民のニーズに適合するか(実用性があるか)、③開発から普及に至る過程にどのような障壁があり、それを克服するためには何が必要なのか、という研究仮説を設定した。
 籾殻コンロの製作と販売を実践し、外部の技術はいかにして地域に定着していくのかを明らかにしていった。

籾殻コンロを使った調理

フィールドワークから得られた知見について

 調査地は、タンザニア南西部に位置するムベヤ州の州都ムベヤ市である。同州は稲作が盛んなため、市内の中央市場の脇には精米所が軒を連ねており、そこでは毎日大量の籾が精米され、同時に大量の籾殻が廃棄されていた(写真1)。報告者は市場に近接した小さな鉄工所に協力を得て籾殻コンロを製作し、市場の路上で実演販売をした。
 今回試作した籾殻コンロには大小2つのサイズがあり、製作に要した材料費はそれぞれ15,000 Tshと25,000 Tsh [1] であった 。コンロは円筒形(直径は大型が40cm、小型が30cm)で、その内側に鍋をはめ込んで使用する(写真2)。燃焼時間は20分程度と短く、籾殻が燃え尽きるとその灰を捨てて最初からセットしなおす必要があるため長時間の調理には不向きであるが、一般的な燃料である薪や木炭よりも着火が早く火力も強い。また籾殻特有の濃い白煙も出ないという特徴がある。
 調査期間中は雨季であったため、籾殻が湿っていることが多く、着火に手こずったり、途中で火が消えてしまうこともあった。また、季節がら農業の端境期であるとともに、クリスマスなどで出費がかさむこともあって、籾殻コンロへの人びとの関心は高いものの財布の紐はかたく、作っても売れない日が続いた。そこで、精米工場の脇でコメや野菜を小売している女性たちにターゲットを絞り、価格を当初の半額以下の10,000Tshと20,000Tshに下げて売り歩いたところ、1人の女性が買ってくれた。すると、その周りで次から次へと購入者が現れ、そのエリアだけで16台(大型2台、小型14台)のコンロが売ることができた。
 後日、購入者に話を聞くと、籾殻コンロを上手に使いこなしている人は、即席の調理や急いでいるときの調理に籾殻コンロを使用し、その他の燃料とうまく使い分けていた。また、インタビューだけでは本音を聞き出すのが難しいが、2台目のコンロを買ってくれた購入者がいたことは、コンロの実用性を裏付けてくれた。


[1] タンザニアシリング。1Tsh ≒ 0.05円(2019年3月現在)

反省と今後の展開

 今回は、購入者から実際に使用したときの意見を聞くために、価格を材料費以下に下げて販売した。この値下げによってコンロはよく売れるようになった。そのことが示すように、機能性を維持しつつ収益性を生み出すためには大きな課題がある。さらに、薪炭材の入手が難しい地方の農村でこそニーズが高い可能性があるが、その場合、流通コストが上乗せされることに配慮する必要がある。
 実用的で価値のあるものをただつくるだけでなく、消費者にその価値を認めてもらうためには、地道で泥臭いアプローチが必要であろう。ただ、草の根での行商や口コミに頼るプロモーションには限界を感じた。広告宣伝業者やSNSの利用も考えたが、ターゲットとなる低所得者層ほどそのような情報にアクセスすることができない。実際、何軒か訪問した購入者はいずれも中所得者層を思わせる家に住んでいて、より周縁の消費者にアプローチする方策を考案する必要があると実感した。

  • レポート:平野 亮(平成28年入学)
  • 派遣先国:タンザニア
  • 渡航期間:2018年10月21日から2019年3月15日
  • キーワード:稲作、エネルギー、産業廃棄物、調理用燃料、ぬかくど、ムベヤ州

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