京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

タンザニアにおけるプリント布のサプライ・チェーンに関する研究/製造・小売間の連関

キテンゲ製のドレスとショールを纏い、カンガを巻く女性

対象とする問題の概要

 本研究では、タンザニアで生産されるプリント布についての調査をおこなう。タンザニアを含む東アフリカでは、カンガやキテンゲと呼ばれるプリント布が、衣服としての用途の他にも、使用の場面や目的に応じ、形を変えて使用することができる布として生活の中の様々な場面で活用されている。東アフリカでは、プリント布は19世紀ごろから利用され、その後独自に発展してきたことが分かっている。今日のタンザニアにおいて、プリント布は主に機械によるプリント技術を使用して生産されており、女性を中心に広く日常的に使用されている。また、タンザニアからモザンビーク、ザンビア、マラウイ、ウガンダ、ケニアなど近隣諸国への輸出も多いことが確認されている。国内や近隣諸国での大きな需要が存在するプリント布は、国内の繊維・衣料産業の中でも重要な位置を占めるといえる。

研究目的

 本研究では、タンザニア国内で生産されるカンガとキテンゲを中心としたプリント布について、タンザニア国内におけるプリント布のサプライ・チェーンの具体的な展開のあり方を明らかにした上で、都市部であるダルエスサラームにおいて、プリント布販売を行っている小売業者の仕入・販売行動から、どのような商品が嗜好されているかを分析する。これらを踏まえた上で、プリント布に関わる小売業者による商品選択の要因と、プリント布製造企業による生産のあり方とが、お互いにどのように連関しているのか、あるいは整合的でないのかを明らかにすることを目的としている。

キテンゲをキコイジャバに加工する小売業者の女性

フィールドワークから得られた知見について

 本調査では、タンザニア国内の2都市にある綿織物工場2社と、首都であるダルエスサラームにある綿織物流通業者の集まる通りでの調査を行った。
 昨年調査を行ったダルエスサラーム所在の綿織物工場は、昨年の12月から閉鎖されていたが、事務所などは営業していたため、従業員に対し企業の歴史や商品の価格に関するより詳細な聞き取り調査を行った。さらにモロゴロ所在の綿織物工場でも新たに調査を行い、生産工程と流通の過程についての聞き取り調査と参与観察を行い、企業の歴史や価格についても聞き取り調査を行った。
 また、流通業者が集まるダルエスサラーム市内の通りにおいては、プリント布の価格、流通業者の種類と業務について流通業者への聞き取りと参与観察、さらに小売商人54人を対象にプリント布の仕入行動についての聞き取り調査を行った。
 これらの調査により、タンザニア国内で綿花からプリント布の製造が行われる工程と、それらが都市部の店舗で販売されるまでの生産と流通の過程の中で、企業によってプリント布の風合いを向上する試みが行われていることが明らかになった。また、プリント布製造企業の中ではコストの観点から、化学繊維の導入が加速している様子が確認された。さらに、工場では商品を捺染段階からの品質ごとに分類し、出荷する仕組みも存在したが、この区分については、小売商人から消費者に販売される段階においてはほとんど活かされていないことも分かっている。一方で、小売商人が仕入れを行う際に選択する商品の嗜好に関し、特に重視される項目は品質やデザイン、色であり、品質の中では厚さ、柔らかさや、綿のみを使用した素材であることは特に重視されているといえる。また、キテンゲを加工したキコイジャバの製作やキテンゲ製既製服の製造により、小売商人らは企業が対応できていない消費者の需要に応える工夫を行っていることが分かった。

反省と今後の展開

 小売商人へのインタビューにおいて重視している点として特に回答の多かった品質、デザイン、色の3つの項目うち、品質についてはより詳細な聞き取りを行うことができた一方、デザインと色に関する選好については踏み込んだ調査を行うことができなかった。今後はこれらを含め、品質以外の項目に対する流通業者や企業の対応についても調査を進め、さらなる検討を行うことが必要である。
 また今回の研究では、消費者の嗜好やニーズを捉える方法として、それらを反映していると考えられる小売業者の選好に着目して調査を行った。今後、直接消費者への聞き取りを行い、供給側である企業の行動と需要側である消費者の意見のずれ、さらに両者をつなぐ存在としての流通業者の役割をより詳しく見ていきたい。

参考文献

【1】Ministry of Industry and Trade (2011) “Integrated Industrial Development Strategy 2025”. Ministry of Industry and Trade

  • レポート:喜田 冴香(平成29年入学)
  • 派遣先国:タンザニア連合共和国
  • 渡航期間:2018 年 6 月 1 日から 2018 年 9 月 29 日
  • キーワード:プリント布、製造業、流通

関連するフィールドワーク・レポート

カメルーン熱帯雨林の狩猟と精神的影響ー宮崎県串間市のイノシシ猟の事例ー

研究全体の概要  カメルーン熱帯雨林に住むバカピグミーは狩猟採集を営む人々である。彼らにとって狩猟という行為は生活の手段としてだけでなく個々人の精神世界や文化形成において欠くことのできない要素として認識できる。近年では定住化や貨幣経済の影響…

インドにおけるトイレとケガレ観念に関する研究

対象とする問題の概要  インドでは野外排泄が社会問題となっている。野外排泄が続く要因として、経済的要因、政治的要因、社会的要因など様々な要因が考えられるが、トイレを「ケガレたもの」として忌み、避けるためトイレの使用を拒むことも、野外排泄を行…

文学とアッタール/イランにおける近年のアッタール研究について

対象とする問題の概要  ドイツの国民作家ゲーテは『西東詩集』においてペルシアの文学作品の影響を受けたことを如実に表している詩を詠んだ。火に飛び込んで自らを燃やす蛾を恋人に例えるというペルシア文学において有名なモチーフを援用したのである。この…

カメルーンのンキ、ボンバベック国立公園におけるヒョウ及びその他食肉目の基礎生態調査

対象とする問題の概要  ヒョウ(Panthera pardus)やゴールデンキャット(Caracal aurata)といった食物ピラミッドの高次消費者である食肉目は、その生息密度が地域の他の動物種の生息密度に大きな影響を与えるという点で、生…

タイ人女性の西欧諸国への国際移動に関する研究

対象とする問題の概要  本研究は、現代社会における多様化するタイ人女性の国際移動の形を捉えようとするものである。 タイ人の国際移動は、工業化や地域間の経済格差といった社会経済的背景から1970年代以降に増加し始めた。本研究で着目するタイ人女…