小規模農家の集団的エンパワーメント/ケニアにおける契約農業の事例から
対象とする問題の概要 ケニアでは、国民の7割が農業に従事している。一方で、農業に適した土地は全国土の2割程度に限られている。近年の人口増加に鑑みると、より多くの人々が小規模な農業適地で農業を行ないつつあると言える。また、ケニア…
モロッコにおいては、15世紀に成立したジャズーリー教団が初の大衆的タリーカである。ジャズーリー教団は後のサアド朝(1509-1659)によるモロッコ統一に助力するなど政治的にも存在感を発揮し、現在の北アフリカ・西アフリカ地域のタリーカにも影響を及ぼしている。このタリーカは同地域の歴史・思想・宗教実践を考える上で非常に重要である一方で、その成立過程は思想と組織の両面において未だ明らかになっていない。教団の名祖ジャズーリーは祈祷書、神学書、スーフィズムの理論書など20点以上の著作を残しているが、著作リストの整備も進んでいないのが現状である。先行研究ではイスラーム世界で広く読まれている祈祷書『善行の手引き』にのみ焦点が当てられてきたと言ってよく、ジャズーリー自身の思想をよりはっきりと読み取ることができると思われる神学書やスーフィズムの理論書といった他ジャンルの作品の分析は不十分である。
本研究の目的は、ジャズーリー教団の成立過程を明らかにすることによって、モロッコにおけるタリーカの大衆化と政治的影響力獲得のプロセスを解明することである。祈祷書、神学書、スーフィズムの理論書など多岐にわたる著作を相互参照・検討し、ジャズーリーの思想を明らかにすることによって、報告者はジャズーリー教団の形成過程の一端を明らかにしようと考えている。
今回の調査では、モロッコ国内の文書館で、大半が写本であるジャズーリーの著作の所蔵状況を調査するとともに、昨年の調査で入手できなかった史料や、現在手元にある写本の別バージョンを収集した。また、書店においても刊本資料の調査・収集を行った。
今回の調査では、首都ラバトとカサブランカの2都市において3文書館でジャズーリーの著作の所蔵調査と写本の収集を行った。新たにジャズーリーの著作である写本史料8点を確認し、内3点を入手した。読解を進め、すでに手元にある写本史料と合わせることによって、文献から読み解く情報の精度を高めることを目指す。写本史料としては、上記の他に後世のイスラーム知識人たちによる『善行の手引き』の注釈書を4点入手した。これらは、教団研究には直接関係を持たないものの、ジャズーリーの思想がどのように受容されていったかを知る上で非常に重要な史料である。刊本としては、モロッコやフランスで出版されたジャズーリーおよびジャズーリー教団の研究書を複数冊に加え、中世以降広く読まれてきたイスラーム神学の古典的著作を購入した。日本では入手困難なアラビア語・フランス語の研究書を入手できた意味は大きい。後者とジャズーリーの神学著作を比較することによって、ジャズーリーの思想的立場を明らかにするためである。さらに、今後の研究の展開によっては必要となりうる、ジャズーリーと同時代あるいはそれ以降のモロッコのスーフィーに関する研究書も数点購入した。
また、サアド朝史研究者であるカウンターパートのルトフィー・ブーシャントゥーフ教授(ムハンマド5世大学)との面談も実りあるものとなった。モロッコ国内の書店情報などプラクティカルな面での助言をいただいたほか、渡航前に読解を行っていたジャズーリーの神学著作の内容に関して報告者が疑問点を挙げ、それに教授が見解を示してくださるという形での議論を行った。スーフィーの手による神学書というものはこれまで顧みられてこなかった著作であるが、スーフィズムと神学を絡めて論じるということの可能性の深さを確信した。
反省点は、事前調査と時間の不足により、写本の所蔵状況調査を完遂できなかったことである。ラバトの2文書館においては写本情報がオンライン化されておらず、紙の目録を一つずつ調べることとなり、報告者が作成したジャズーリーの著作リストには未だに多くの漏れがあると考えられる。日本におけるモロッコおよび北アフリカ研究は発展途上であり、調査を行うにあたって必要な情報の整備・共有も研究者間で進んでいるとは言い難い。今後の調査を通じて、報告者自身の研究のためだけでなく、モロッコで調査を行う研究者に役立つような図書館・文書館関連の情報収拾を行いたいと考えている。
これからの研究の展開としては、今回のプログラムで入手した写本・刊本の読解と内容の検討を進め、ジャズーリーの思想を多面的に明らかにしていくことが主要な取り組みとなる。
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