ブータンにおける女性の宗教実践とライフコースの多元性
対象とする問題の概要 南アジア社会における女性研究では、世俗としての家族と現世放棄としての出家という二項対立的な女性のライフコース選択は自明のものとされてきた。特に、女性のセクシュアリティは危険なものとされ、家族や宗教といった制度によって…
近年のアジア諸国では急速な経済発展に伴い、水産資源の乱獲が非常に大きな問題となっている。水産資源の持続的利用に向けた取り組み、管理体制の構築は急務であり、国の枠組みを超えて議論が行われている。北欧諸国では、ITQ(譲渡可能個別割当)やIVQ(個別漁船割当制度)を導入し、持続的な管理に成功している国・地域もある[小松2016]。
しかし、東南アジア島嶼部などの熱帯海域では、北欧に比べ魚種が多様であるため、漁獲枠の設定どころか、種ごとの資源量を推定すること自体が非常に難しい。
そこで現在注目が集まっているのが、地域住民と政府が共同で資源管理を行う漁業協力管理(fishery co-management)である。これは元来その地域に存在する伝統漁法、管理方法、生態や環境に関する知識を活かしながら、足りない部分を政府が補うことで資源と漁業の保全を図るというものである。漁業協力管理を適切に運用するためには、地域ごとの詳細な調査を行い、その地域の特性に合った具体的方法を策定する必要がある。
本研究では、漁業協力管理の発展に貢献するために、インドネシア・マルク州のケイ諸島で行われている伝統的資源管理慣行“サシ”を対象とした調査・分析を行う。“サシ”とは、マルク州で伝統的に行われる資源管理を目的とした慣習で、海や森の生物種に対して収穫の禁止範囲と期間を設けることで行われる[村井1998]。
ケイクチル島南部のOhoider Tom村では、貝類やナマコといった海洋生物の採集?管理?に対して“サシ”を適用している。さらにこの村では、公的機関が地域住民が行う取り組みを尊重しながら調査・援助を行っており、インドネシア科学院(LIPI)はLola(学術名:Trochus niloticus Linn.)と呼ばれる巻貝を対象にした研究や稚貝の放流をおこなっている。。
本研究は、このOhoider tomオイデル・トム?村を対象に聞き取り調査および資源量調査を行い、そこで得られたデータを基に水産資源と漁業の持続性を統計学的に評価し、漁業共同管理体制の構築に向けた両者の役割することが目的である。
今回のフィールドワークの主な目的は調査候補地の選定であった。ケイ諸島は、ケイクチル島とケイブサル島、そしてドゥラ島の3つの大きな島とその周辺の小島からなる。ケイブサル島はコスト面においてアクセスが難しいと判断し、ケイクチル島とドゥラ島に絞って、“サシ”を行う村の情報を集めた。その結果、現在“サシ”を行う村を三か所見つけることが出来た。
“サシ”は村ごとに行われ、その適用方法、期間および罰則なども村によって異なる。適用方法としては、海や森の特定の範囲において全ての生物種の収穫、捕獲を禁止する場合、特定の種のみに適用する場合や使用できる道具を制限する場合などがある。“サシ”を破った場合には、村に対して罰金を支払ったり、Lela(大砲)やGong(鐘)といった装飾物を納めたりしなければならない。しかし、ケイ諸島には、“サシ”を破ると病気になったり、事故に遭うといった信念が現代においても根強く作用しており、現地の人々は罰金以上にそれらの災厄を恐れているようであった。
ケイクチル島南部に位置するOhoider tom村では、Lola(Trochus niloticus Linn.)と呼ばれる巻貝を対象にした“サシ”が行われている。ここでの“サシ”は2017年4月より開始され、再び解禁されるのは2年後である。解禁時に漁獲されたLolaは個人単位でインドネシア国内や中国から来たトレーダーに売られる。そして、村人は売り上げの一部を村に寄付しなければならない。この村ではLola資源の減少を受けて、2015年に初めて“サシ”が適用された。またインドネシア科学院による村海域内でのLolaの放流も行われている。
今回の現地滞在はわずか10日間であったため、詳細な聞き取り調査や自然科学系のデータ収集は行えなかったが、多くの方々の協力もあり、調査地、研究方針を決める上で非常に有益な情報を集めることが出来たと感じている。
今回の渡航では、マカッサル市内のハサヌディン大学で1か月の語学経研修を積んだ後、ケイ諸島での調査を行った。報告者は、ケイ諸島に行く直前まで何のあてもない状況であった。しかし、多くの方々の気遣いや親切により、報告者は、言葉にして要求した以上の支援を賜ることができた。結果としてそれが今回の調査の成果となって表れた。今回得られた情報を元に、研究の方向性を今一度ブラッシュアップし、“サシ”が水産資源管理に果たす役割をあらゆる角度から明らかにしていきたい。
また今回の調査で想像を上回る成果が得られた1番の要因は、現地の方々の親切心とネットワークの広さである。報告者は拙いインドネシア語でかろうじて要求を伝え、そこに立っていただけである。その時の自分に対する情けなさを忘れず、次回の渡航までに言語のレベルを上げ、自らの言葉で、ケイ諸島の人々が持つ知識の宝箱を開けてみたいと感じた。
【1】小松正之. 2016. 『世界と日本の漁業管理 政策・経営と改革』 成山堂書店.
【2】村井吉敬. 1988. 『サシとアジアと海世界:環境を守る知恵とシステム』 コモンズ.
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