インドネシアの伝統的薬草療法ジャムウが地域社会で果たす役割について/健康増進・疾病予防・女性のライフイベントサポートの観点から
対象とする問題の概要 近年インドネシアは、急速な経済発展と生活様式の変化に伴い、生活習慣病や高齢化による慢性疾患が増加している。これらの疾患は、西洋医学だけで即座に根治しないため、先進国では、補完・代替療法(マッサージ・薬草等)を導入する…
インドネシアでは2014年1月に医療保険及びその実施機関であるBadan Penyelenggara Jaminan Sosial (BPJS) Kesehatanが設置され新たな社会保障制度が開始された。その後、2015年7月より労働保障制度実施機関であるBPJS Ketenagakerjaanが設置され労働保険を中心とした制度の運用も開始されている。しかしながら、関係法令が制度の開始直前に施行されるなど準備不足が露見し正常な制度の運営が疑問視されている。特に加入者の急増に対する医療施設の整備不足は予てより懸念されていた。制度施行後は診療を求める患者の急増によって受診までに長時間を要するといった問題や、医療施設側からの受診拒否等が報告され問題視されている。また、健全な制度の運営に必要な財政の確保に対する懸念は未だに大きな問題として残されている。現在は制度の運用を行いながら国民に対して制度の普及活動や制度の改善に取り組んでいる状況である。
新たに開始された社会保障制度ではあるが制度の財政問題や医療施設の不備を扱った調査・研究は散見されるものの労働災害や安全衛生に関する問題にはそれほど関心が払われていないのが現状である。今回の調査ではBPJS Ketenagakerjaanに焦点を当て労働災害や安全衛生に関して以下に挙げる項目に基づき関係行政機関や企業等に対して聞き取り調査を行う。①BPJS Ketenagakerjaan制度に関する現行の問題点や保険制度の運営に関する実情を明らかにする②労働災害の防止に対する企業や行政機関の具体的な取り組みを明らかにする③被災労働者の保護や社会復帰への取り組みに関する調査を行う、以上の点に特に着目し、調査を行っていく。調査に関しては行政機関や企業だけでなくNGOや労働組合等にも聞き取り調査を行い多面的な調査・分析を行う。
今回の調査では前回の調査時に面識を得ることが出来た企業に調査協力を依頼し、調査対象企業から安全衛生部門を担当するマネージャー, 福利厚生制度の運営を担当するマネージャー及び法務を担当するマネージャーの方々を紹介して頂き調査に協力して頂いた。各担当者から企業が取り組む安全衛生制度や福利厚生制度に関して聞き取り調査を行うことが出来た。安全衛生に関する取り組みとして調査対象企業では①職場の安全, ②従業員の安全, ③非常時に対する備えの3つの柱を主軸として労働災害の防止に努めていることが分かった。衛生面においては特に食堂システムを主軸として従業員の健康管理を徹底していることも知ることが出来た。また、企業内の医療施設において定期的に従業員に対する健康相談や健康教育が行われる。こうした啓発活動によって従業員の健康に対する意識の向上を促し、企業側・従業員の双方から健康の保持増進に努めている。法務の担当者に対する聞き取り調査では労働災害発生後の法的な手続きに関してBPJS Ketenagakerjaanへの報告・支給申請から受給までの法的な手続きの流れ、その後の被災労働者に対する法的対応に関して調査を行うことが出来た。
BPJS Ketenagakerjaanに対する調査ではBPJS Kesehatanに登録をしている診療機関(健康保険の保険医療機関に相当する。)のうち約50~60%の診療機関が労働災害に対する診療にも応じている。機関は近い将来、全ての診療機関において労働災害に対する診療が供給可能となるように整備を進めていることを知ることが出来た。また、社会復帰促進事業の一環であるReturn to Work Programのさらなる拡充も検討されていることがわかった。
今回の調査では前回の調査で面識を得ることが出来た企業の協力によって調査対象企業の安全衛生制度や福利厚生制度に関して調査を行うことが出来た。また、法務部の担当者に対する聞き取り調査によって法的な手続きまで調査を行うことが出来た。具体的な手続きの過程にまで調査を行うことができたことは大きな前進と言える。反面、企業側との調査日程の調整が難航したことによって後の調査の日程が大きくずれ込んでしまった。この点は企業側の日程を完全に把握することは不可能であったとしても反省点といえる。また、前回の調査よりは学習が進んでいたとはいえ、法的な手続きに関する詳細等の調査に関してはインドネシア語による意思疎通が困難な面もあったことから更なる学習を要する。今回得られたデータを基に、博士予備論文の執筆に取り掛かると伴にさらなる調査を行いより多くのデータの収集に臨みたい。
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