野生動物の狩猟と地域の食文化に関する研究――ラオス北東部におけるツバメの狩猟活動について――
対象とする問題の概要 経済発展の著しいラオスでは、市場経済化の中心は外国企業・外国資本である一方、副業として行われる自然資源の採集活動は農村部の貴重な現金収入源となっている。ラオス北東部シェンクワン県で活発に行われるツバメの狩猟は、地域固…
本研究で対象とするクルド人は、「国を持たない最大の民族」と言われる。クルド人とは、ティグリス・ユーフラテス川上流域や山岳地帯で遊牧生活を営み、独自の言語や文化を持つ先住民族である。しかし、居住域である「クルディスタン」は、現在イラン、イラク、トルコやシリアなどの国境線によって分断されている。
在日クルド人の多くはトルコ国籍を持っている。1993~1995年がピークだったとされる無人化政策[1]や強制移住、拷問などの暴力を背景に、1990年代からクルド人が来日し始めた[松澤ほか2021: 7]。現在は埼玉県川口市を中心に2000-3000人存在すると言われている。しかし、日本では、トルコ国籍のクルド人の難民認定は、2022年5月の札幌高裁判決を受けて難民認定された一件のみ[毎日新聞2022]で、ほとんど認められていない。日本で暮らすクルド人たちは、異なる言語や文化に加えて、不安定な在留資格という問題も抱えている。
[1] クルド人居住地域の村々を実質的に消滅させるためのトルコ政府の攻撃。
本研究の目的は、在日クルド人1.5世や2世の教育に対して、在留資格が与える影響を明らかにすることである。
多くがクルド人と考えられるトルコ国籍の難民認定申請者数は、2021年時点510人で国籍別第二位だが、難民認定された者はいなかった[出入国在留管理庁2022]。トルコ政府と日本政府の協力関係のため、トルコ治安当局が「テロ対策」名目で行う措置を、法務省が「迫害」と認定することは難しいためだと言われる[移住連2021]。
2012年の入管法改正以降、難民認定申請中は「特定活動」ビザが出るようになったが、およそ2回目の申請以降ビザがなくなり、非正規滞在となる。非正規滞在となった人々は、一時的に出入国管理局への収容を免除される仮放免状態となるが、住民票や保険がなく、県外移動が制限され、就労も禁止される。こうした「生きながらの死」ともいえる状態が、子どもたちの学校生活や進路に対して、どのような影響を与えているかについて調査を行った。
在日クルド人の子どもたちの多くは、日本に安定して住み続けられる在留資格がない。特定活動ビザがあるか仮放免状態かに関わらず、子どもたちは、親族がいつ入管に収容され、強制送還されるかわからない不安が常に付きまとう。
在留資格の問題は、進路にも大きな影響を及ぼす。日本では、外国籍の人々は在留資格によって就労や生活が大きく左右されるため、進路選択はビザを意識したものにならざるを得ない。ましてや、就労が禁止されている仮放免の子どもたちは、就職活動ができるよう高校や大学在籍中に、在留特別許可(在特)を求めて裁判を行う必要がある。
ただし、長期にわたる裁判は準備時間をとられる上に、在特が出るかわからない状態が続く。また、裁判ができるのは、財力があり、日本人支援者や弁護団と繋がりのある一部のクルド人だけだ。クルド難民弁護団の大橋毅弁護士によると、担当した裁判で在特が出されたクルド人は7人のみだと言う。
また、仮放免の子どもたちは、各種奨学金等の対象にならないため、私立学校の受験を諦め、選択肢が狭められる。支援者によると、在留資格の有無に関わらず子どもの教育機会は保障されるはずだが、学校側の無理解により、仮放免のクルド人が試験に合格しても入学を断られたケースもあった。
学校生活においては、保険がなく治療費が高額になるため、体育の授業や部活動に全力で取り組むことができない事態も発生していた。また、クルド人青年が小学生の頃に父親が入管に収容された際、「家族が犯罪者だ」という噂が保護者の間で広まり、クラスなどでのいじめにつながった事例もあった。
このように、不安定な在留資格が、在日クルド人の子どもたちの将来の展望を見えなくさせている。しかし法務省などが喧伝する非正規滞在を「悪」とするネガティブなイメージや、地域社会の無理解もまた、子どもたちの教育機会や夢を阻んでいることが調査からわかった。
在日クルド人の子どもたちは、上記に述べたような在留資格の問題に加えて、移民の子どもたちに共通する問題も抱えている。例えば、母語教育や定住国の言語教育、不就学、医療通訳、親世代との価値観の相違などだ。また、ヤングケアラーやジェンダー役割など、日本社会における問題がより如実に表出している事例もあった。クルド人特有の問題と、他の外国籍の子どもたちと共通する問題を整理することが、今後の課題である。
また、在留資格や難民認定制度など、大きな法制度という枠組みで考えるべき課題と、日本語教室の拡充や地域社会の理解促進など、地方自治体単位で取り組むべき課題とに分けて考え、問題解決のための今後の方策について考えることができなかったことが反省点の一つである。
『毎日新聞』2022年8月17日(東京版夕刊)「トルコ国籍のクルド人、初の難民認定 不合理な 構造、変える契機に」
移住連<https://migrants.jp/news/blog/20210212_1.html>(2021年3月4日)
出入国在留管理庁.2021年5月13日.「令和3年における難民認定者数について」.
松澤秀延・中島由佳利・温井立央.2021.『在日クルド人の1990-2021』在日クルド人の現在 2021実行委員会.
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