南北分断期のベトナム共和国の仏教諸団体に関する研究
対象とする問題の概要 本研究では、植民地支配・独立・戦争・分断・統一という20世紀の社会変動とそれに伴うナショナリズムの高揚のなかで、各仏教諸団体がそれぞれの宗派(大乗・上座部)・エスニシティ(ベト人・クメール人)・地域(北部・中部・南部…
ネパールには先住民族が存在している。その多くは元々ヒンドゥーとは異なる自らの文化や宗教を実践していたが、1768年にシャハ王が現在のネパールと呼ばれる土地を統合して以降、ヒンドゥー文化を基準とした実践が強制されるようになった。これは2015年憲法で世俗国家と規定されるまで続き、現在でも全ネパール国民に対してヒンドゥー文化を強制されている側面が残っている。その一つが「牛(牡牛・牝牛)を殺してはならない」という刑法典の規定である。しかし、今回の調査地である東ネパールには多くの先住民族が暮らしており、日常的に牛肉が消費されている現実もある。ここで、2023年7月25日に牛肉販売店の2人がネパール警察に逮捕される事件が発生した。その後2人は釈放され、8月16日にこれを祝うための宴会が行われた。これをきっかけに、ヒンドゥー過激派と先住民族の活動家がSNS上で衝突し、結果的に街に外出禁止令が出される事態にまで発展した。
2006年の内戦終結以降、ネパールにおける先住民族の権利運動が急進的に台頭している。その理由として、民主化や近代化、そして世俗化によって先住民族が自らの伝統・文化・宗教等の自由及びヒンドゥー文化との平等な権利を求め始めたことへの関連が考えられる。そして、この活動は死者を出すほど過激なものとなっている。先住民族の権利運動は基本的には受動的抵抗であるため、物理的暴力を用いて権利運動を実施する例は少ない。しかし、今年発生した抵抗運動だけを見ても刑法を犯すような行為は散見されており、将来的に暴力を伴う活動に発展する可能性もある。このような状況において、本研究が当該地域である東ネパールにおいて暴力抑止の足掛かりになることを期待する。
今回のフィールドワークにおいては、主に首都・カトマンズと東ネパール・ダランにおいてインタビュー調査を行った。カトマンズにおいてはヒンドゥー活動家や7月の肉屋逮捕に関して直接関連のないムスリム活動家、クリスチャン活動家に対しての聞き取り調査を行った。ヒンドゥー活動家の多くは事件について詳しい情報を知らなかったが、逮捕者がクリスチャンであると決めつけた上で社会的調和を乱す存在として批判した。また、ムスリム活動家はこの事件に対してはコメントをしないという意思を表明し、クリスチャン活動家たちはいかなる社会構成員もネパールにおける社会的調和を乱すべきではないこと、そしてクリスチャン批判は問題を起こすクリスチャンがいることによって生じるということを主張した。
一方でダランにおいては、事件の事実についての情報収集と、牛及び牛肉に対してどのような文化的・宗教的意識を持つのかという点に重きを置いてインタビューを行った。そして、RaiやLimbuといったダランに多く住む先住民族グループは牛肉や牛頭を宗教的儀礼の一部として使用する一方で、Tamangという先住民族グループは牛肉を食べるにとどまり、宗教的儀礼では用いないことが分かった。
また、ダランにおいて先住民族がどのような歴史的弾圧意識を持ち、ヒンドゥー文化を基盤としている政府に何を改革として求めているのかについては、さらに詳しく調査する必要があると考える。これに加え、ダランで現在積極的に活動している権利運動団体の存在も明らかになったため、今後どのような人々が具体的にどのような活動を行っているのか、という点については更なる調査が必要である。
今回多くの情報を得ることができたものの、言語という側面では多くの問題が残っている。入学から3か月の学習では、現地の方々にインタビューするほどの語学力を身に着けることはできなかった。そして、現地滞在中に言語力が全く成長を見せなかったということはないものの、インタビューに足る段階には至らなかった。首都周辺でのインタビューについては通訳をお願いすることや英語話者も多く、言語力の不足が研究に影響する部分は少なかったものの、今後主な調査地にしたいと考えている東ネパールにおいては、多くの人が英語を話さないことに加え、インタビューを実施した先住民族に関する活動家の多くは第一言語が自らの民族言語であり、ネパール語ですら第二言語であると聞く。そのため、今後最も優先して克服するべき課題は、日常会話だけでなく、インタビューを実施できるレベルのネパール語力を身に着けることであると考える。
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