京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

エチオピア西南部地方都市における椅子と女性の身体動作

写真1 バーカ(baaka) 地面からの高さ:25.1cm、横幅:200cm、奥行:80cm 製作年:2016年(エチオピア暦)、使用期間:5か月、撮影場所:ジンカ市T地区

対象とする問題の概要

 エチオピア西南部の高地に住むアリの人びとは、バルチマと呼ばれる木製の3本足の椅子を日々の生活で利用している。調査対象にしたジンカ市T地区に生活するアリの人びとも、バルチマやプラスチック製椅子、アドミチャルと呼ばれる木枠とクッションで構成されている椅子など複数種類の椅子を日々の生活で利用している。
 ジンカ市T地区に居住する10代~50代のアリの女性たちを対象に家事労働における椅子や道具の利用の仕方について着目し、調査することで、それらのデザインと身体動作の関係を分析し、空間の利用の仕方を明らかにすることができると考える。

研究目的

 エチオピア西南部の地方都市における椅子とその利用に注目し、椅子の形態的な特徴、椅子の利用場面における身体動作と空間利用との関わりやその特徴について明らかにする。

写真2:女の子たちがイモ類の皮をむく様子 一人は段ボール箱の上に座り、足を曲げている。もう一人は、しゃがんだ状態で右手にナイフ、左手にイモ類を持って皮をむいている。

フィールドワークから得られた知見について

 今回、得られた知見は3つである。
 1つ目は、かまど(現地語でバーカbaaka(アリ語))(写真1)の形態と身体動作の関係を見出せたことである。
 調査した10世帯では、異なる高さにかまどをつくっていた。かまどをつくっていた場所とその形態的特徴を観察・計測したところ、かまどは、3つの場所でつくっていたところを観察した:1.地面、2.土を盛って地面より高い位置でかまどを設置、3.10センチメートルほど地面を掘ってかまどを設置。かまどの高さは、地面を起点に-13.4~45cmだった。地面から10cm以下の場所にかまどが作られている世帯では、しゃがんだ姿勢や地面に座って調理を行っていた。その一方で地面よりも10cm以上高い位置にかまどがある世帯では、深前屈やバルチマに座って調理を行っていた。
 2つ目は、10代前半の女子も家事労働に携わっていることである。調査した10世帯のうち、7世帯で10歳以下の女子が家事労働に携わっていた。彼女たちは、世帯主の姉妹や世帯の子供、世帯で扶養されている子供であった。彼女たちは、授業がない時間(シフト制のため、授業は午前もしくは午後に実施)に家事労働全体や一部を担っていた。観察した中で昼食の準備に携わっている場面が最も多かった。他方、1世帯のみで観察したが、50代の女性が家事労働に携わっていた。この女性は世帯主の妻の母親であり、家の掃除や調理などに携わり、立った状態や深前屈で作業を行っていた。
 3つ目は、椅子を利用する人たちが、椅子の利用を含めて、自らの生活史を語ってくれたことである。調査した10世帯のうち、2世帯で自分の半生の中で、椅子の利用の歴史を確認した。聞き取りによると、ある世帯では、長男の名前が刻印された椅子があり、それは長男が生まれたときに購入したと説明してくれた。もう1世帯では、結婚する際に世帯主の父親が、コーヒを淹れる時に利用してほしいという希望とともに椅子を贈ってくれたと説明してくれた。

反省と今後の展開

 今回の渡航では、前回の予備調査と同じ地区で調査を行った。10代前半の女子から50代の女性までが家事労働に関わっていること、かまどの形態と身体動作の関係を見出せたこと、同じ作業でも人や使用する道具によって作業姿勢に相違点があることを見出した。また、インフォーマントの女性の作業に参与観察することで使用していた道具のデザインとその時の姿勢との関わりについて明らかにすることができた。今後は、エチオピア西南部の農村部に暮らす女性や都市部の年長女性も対象に含めて、自然環境や生活環境、年齢のちがいなどにも留意して、椅子の利用や作業姿勢のちがいに関するデータを収集し、姿勢がどのように規定されているのかについて検討したい。

  • レポート:元木 春伽(2023年入学)
  • 派遣先国:エチオピア
  • 渡航期間:2024年8月21日から2024年11月19日
  • キーワード:椅子、身体動作、もののデザイン

関連するフィールドワーク・レポート

タイ 2019年総選挙における軍事政権の御用政党 /バンコク都での議席獲得要因に関する考察

対象とする問題の概要  2019年3月24日、タイで約8年ぶりの総選挙が実施された。2014年以降の軍事政権から、選挙結果に基づく政権および首相の復帰となるはずであった。しかし結果は、選挙に敗北した親軍派政党が政権を握り、軍政トップであった…

日本の窯をつかった炭焼きの実態とその製炭技術 ――能勢菊炭を事例に――

研究全体の概要  タンザニアで調理用燃料として使用されている木炭は、国内の広い地域で共通したやり方で生産されている。当地の炭焼きは日本のように石や粘土でつくられた窯を使うのではなく、地面にならべた木材を草と土で覆って焼く「伏せ焼き」という方…

限界集落における移住事業者と地元住民――静岡県賀茂郡南伊豆町沿岸集落の事例――

研究全体の概要  地方では過疎化や限界集落の増加が深刻な問題となっている。そして近年、それらの問題の対策の切り札として都市から農村・漁村への移住者が注目されており、多くの地方自治体が様々な政策で移住者誘致に励んでいる。その効果もあり、またリ…

マダガスカル・アンカラファンツィカ国立公園における保全政策と地域住民の生業活動(2018年度)

対象とする問題の概要  植民地時代にアフリカ各地で設立された自然保護区のコンセプトは、地域住民を排除し、動植物の保護を優先する「要塞型保全」であった。近年、そのような自然保護に対し、地域住民が保全政策に参加する「住民参加型保全」のアプローチ…

東南アジアにおけるイスラーム市場の発展――マレーシアを事例として――

対象とする問題の概要  21世紀以降マレーシアではハラール認証制度の普及やムスリム消費者層の中流化が起こり、イスラーム市場というものが変容している。イスラーム市場というものは、ハラールマークだけでは語ることができないものである。しかし、現在…

ウガンダ都市部におけるインフォーマリティに関する研究/バイクタクシー運転手を事例として

対象とする問題の概要  ILOは、発展途上国における都市雑業層をインフォーマル・セクター(以下、ISと略記)と定義し、工業化が進めばフォーマル・セクター(以下、FSと略記)が拡大して、ISは解消すると予測した(ILO, 1972)。しかし、…