京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

カメラ搭載GPS首輪を用いたモウコガゼルの家畜遭遇と水場利用

写真1 カメラ搭載GPS首輪装着後、放獣された成獣メスのモウコガゼル。 1年半のデータ記録後、首輪は自動脱落する。

対象とする問題の概要

 モンゴルは遊牧を伴う畜産業が主要産業の一つである。同国は1991年の市場経済化以降、家畜頭数が増加しており、2019年には7,000万頭を突破した [National Statistics Office of Mongolia 2025]。増加した家畜による過放牧は、草原を共有する野草食獣との競合を引き起こす可能性がある。しかし、モンゴルの野生動物がどの程度放牧家畜の影響を受けているのかは知見に乏しい。研究対象のモウコガゼル(学名:Procapra gutuurosa以下、ガゼル)はモンゴルの草原地帯に生息し、放牧家畜と同じ草原を利用している。本地域におけるガゼルの生息地選択に家畜が及ぼす影響の評価は、遊牧地域における野生動物の生息地選択要因の理解だけでなく、モンゴルの伝統的な生活様式である遊牧と野生動物が共存するための管理手法の策定に資するだろう。

研究目的

 本研究では、ガゼルの生息地選択に伴う放牧家畜との空間的な接触可能性を定量的に評価することを目的とした。放牧家畜の影響評価には、ガゼルと家畜の遭遇記録と、家畜の分布データが有用である。カメラ搭載GPS首輪による個体周辺の記録は、家畜とガゼルの遭遇検出が可能であり、同時に遭遇地点を記録することで遭遇が発生しやすい条件を特定できる可能性がある。
 モンゴルの遊牧民は主に家畜の飼料である植物の分布と水場を主な要因として利用地を決定する。夏季は植生量が増えるため、ガゼルと家畜の生息地選好が顕著となると考えられる。放牧家畜が集中すると想定される水場を用いてガゼルの利用地を解析することで、家畜との空間的な関係を理解できると考えられる。
 本研究では、1)動物搭載カメラによるガゼルと家畜の遭遇検出、および2)ガゼルの夏季生息地選択と水場の関係を解析することで、家畜の存在がガゼルの生息地選択に及ぼす影響の評価を試みた。

写真2 ライントランセクト調査中に観察したヤギとヒツジの群れ。 群れの大きさが1,000頭を超えることは珍しくない。

フィールドワークから得られた知見について

 今回の調査は1)ガゼルへのカメラ搭載GPS首輪の装着、および2)ライントランセクト調査による家畜の分布調査を実施した。
 追跡装置の装着はモンゴル中部トゥブ県で実施した。草原に高さ1.5 m、長さ150 mのネットをU字型に設置し、4台の車両で成獣メスを追い込み捕獲した。捕獲は1個体ずつ実施し、合計6個体の成獣メスを捕獲した。体サイズの指標として後足長と首回りの太さを計測し、歯の摩耗により年齢を推定した。個体の情報を記録したのちにカメラ搭載GPS首輪を装着し、放獣した。記録しているデータのうち、GPSは2時間ごとに取得され、2日に1回衛星通信でアップロードされるためインターネット上で確認できる。現在、追跡個体のうち3個体は捕獲地から110 km程度南下し、2個体は75 km北上、残りの1個体は捕獲地から30 kmの東側で滞在している。東側に滞在した個体はモンゴル国内を縦断する鉄道に沿った移動経路が確認された。これは線路沿いの有刺鉄線により、移動が妨害されている可能性を示唆する [Ito et al. 2013]。追跡期間は1年半を予定しており、データ記録後に首輪は自動で脱落する。
 家畜のライントランセクト調査は中部のトゥブ県と、トゥブ県の南側に隣接するマンダルゴビ県で実施した。2023-2024年に追跡した個体の夏季生息地とその周辺にトランセクトを設け、車両の移動経路から3 km以内のガゼル、家畜、および移動式住居(ゲル)や鉱山などの人間活動を記録した。家畜については、種類と群れサイズも記録した。トランセクト調査の総経路は584.1 kmであり、ガゼル5回、ウシ117回、ウマ176回、ヤギ・ヒツジ85回、ラクダ9回、および人間活動を315回記録した。今後さらにデータを蓄積し、家畜の分布と水場や植生などの環境条件との関係を明らかにすることで、ガゼルと家畜の生息地選択の違いや、家畜密度とガゼルとの遭遇可能性の関係を評価できるようになると考えられる。

反省と今後の展開

 反省点と今後の展開として、遊牧民による放牧家畜の具体的な管理方法の調査が実施できなかった点が挙げられる。アフリカのサバンナでは、一部の野生動物は、ヒトの存在下では夜間に水場を利用することが知られている [Crosmary et al. 2012]。ガゼルにおいても、水場を利用する時間帯を変えることでヒトとの遭遇リスクを低減している可能性がある。放牧家畜の管理方法を調査することで、遊牧民や家畜がガゼルに及ぼす空間的な影響に加えて、季節や一日の活動時間帯などの時間的な影響を解析できると考える。また、家畜の分布状況と水場の関係解析も必要と考える。モンゴルは年間の環境変動が大きく、家畜の分布も年毎に異なる可能性がある。将来の家畜の分布を予測するには、家畜密度が大きくなりやすい環境条件を理解する必要がある。水場など家畜が集中しやすい環境要因とガゼルの生息地選択を併せて解析することで、両者の生息地重複の可能性を定量的に評価できるだろう。

参考文献

 Crosmary, W. G., M. Valeix, H. Fritz, H. Madzikanda & S. D. Côté. 2012. African Ungulates and Their Drinking Problems: Hunting and Predation Risks Constrain Access to Water. Animal Behaviour, 83(1): 145–153.
 Ito, T. Y., B. Lhagvasuren, A. Tsunekawa, M. Shinoda, S. Takatsuki, B. Buuveibaatar & B. Chimeddorj. 2013. Fragmentation of the Habitat of Wild Ungulates by Anthropogenic Barriers in Mongolia. PLoS ONE, 8(2): e56995.
 National Statistics Office of Mongolia. 2025. Number of livestock, by type of livestock, aimags and the capital, and by year. https://www.nso.mn/en/statcate/table-view/Regional%20development/Livestock/DT_NSO_1001_109V1.px(2025年7月5日).

  • レポート:多田 陸(2024年入学)
  • 派遣先国:モンゴル
  • 渡航期間:2025年9月1日から2025年11月20日
  • キーワード:モウコガゼル、動物生態学、人と動物の関係、生息地選択、家畜、 モンゴル

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