レバノン・シリア系移民ネットワークにおける現代シリア難民の動態
研究全体の概要 本研究は、商才溢れるレバノン・シリア系移民が長期間にわたり築いてきた人的ネットワークに注目し、その中で2011年以降のシリア難民の動態と位置付けを探る。レバノンとシリアは1946年のフランスからの独立達成以前は、一括りの地…
イランの金融制度は1979年のイスラーム革命に伴い、全ての商業銀行が無利子で金融業務を行うイスラーム金融に基づくものとなった。イスラーム金融は1970年代に勃興して以来成長し続けている反面、中低所得者の金融へのアクセスや、多様な金融需要への対応に対して課題を有しているとされる。イランでは、国全体の金融制度が全てイスラームに基づいたものとなっているため、中低所得者層の金融へのアクセスや金融需要に対する課題がイスラーム銀行と従来型の銀行が併存する他のイスラーム世界の国と比較して深刻とされる。そのような中、イランではガルズ・アル=ハサネと呼ばれるイスラーム経済における無利子貸与の仕組みを用いたガルズ・アル=ハサネ基金という名の基金が存在し、商業銀行の上述の金融アクセスや現金需要の課題を補完する形で機能しているとされる。本研究ではこのガルズ・アル=ハサネ基金の社会的・経済的な役割を明らかにする。
本研究の目的は、上述のイスラーム経済の無利子貸与を用いたガルズ・アル=ハサネ基金の社会的・経済的役割を明らかにすることにある。ガルズ・アル=ハサネ基金は中低所得者層の金融へのアクセスを提供しておりイランの経済を支えている重要な要素の一つであるとされる。そのため、本研究を通じて基金が現代イランの経済に対してどの程度影響を与えているのかを明らかにしたい。同時に現代イランのイスラーム経済の実態についてもより詳しく解明したいと考えている。現代イランの研究は政治・経済的な文脈でなされたものが多く、イランのイスラーム経済に関する情報は多くない。またイスラーム経済研究は湾岸諸国や東南アジアなどを中心としたものが多いこともあり、そういった背景からもイランのイスラーム経済に関する実態は明らかになっていない。そのため本研究はイランのイスラーム経済の実態をイスラーム金融や、ガルズ・アル=ハサネ基金に着目し行う。
テヘランにあるガルズ・アル=ハサネ基金のうち3つに赴きその運営者から基金についての聞き取り調査に成功した。聞き取り調査では基金の社会的・経済的役割や、イランにおけるイスラーム金融へのアクセスに関する課題、基金運営の具体的情報やグラミン銀行を応用したマイクロファイナンスの新たな形、イランにおけるイスラーム経済などについての情報を得ることに成功した。またテヘラン大学の近くのエンゲラーブ広場周辺の本屋にて、ペルシャ語で書かれたイスラーム経済に関する書籍を2冊、ガルズ・アル=ハサネ基金に関する書籍を2冊、イランのアーヤトッラーのファトワー集を6冊、合計10冊の書籍の収集に成功した。さらに、イランの中央銀行の調査機関で経済白書を発行している“The Monetaryand Banking Research Institute”の研究者3人と面談し、ネットワークを築くことに成功した。その際、その研究者の方々からイランのイスラーム経済やガルズ・アル=ハサネ基金についての情報を聞くことができた。具体的には基金の社会的・経済的役割やその変容などについて聞くことができた。またイランにおけるイスラーム経済に関する研究の最新情報や、最新の論文を入手できるウェブサイト、イスラーム経済を中心とした書籍を刊行する出版社などの研究を行うにあたって有意義となる情報なども聞くことができた。この面談を通じて親睦をさらに深めた結果ネットワークの構築に成功した。そのため帰国後も最新情報や論文などを送っていただいている。また9月8日~10日にかけて行われたアーシューラーと呼ばれるシーア派の宗教行事の参与観察をすることにも成功した。イランはシーア派を中心としたイスラーム国家体制をとっており、シーア派の一大行事を参与観察することで、イランやシーア派に関する視座を深めることに成功した。
今後の展開としては、今回の調査から得られたイランのイスラーム経済やガルズ・アル=ハサネ基金などに関する知見を用いてイランのイスラーム経済に関する理解を深めていくことを目的に研究を続けていく予定である。具体的には博士予備論文の執筆に向けて、今回の渡航を通じて入手した文献資料の内容理解を深めるとともに、基金の運営者や研究所の研究者の方々からの聞き取り調査の内容をもとにイランにおけるイスラーム経済や、ガルズ・アル=ハサネに関する分析を行っていく。またそれにあたって、世界的なイスラーム経済・イスラーム金融の研究動向や、イランの経済状況に関する視座を踏まえたうえでイランのイスラーム経済及びガルズ・アル=ハサネの研究を行っていき、博士予備論文の執筆にあたりたいと考えている。
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