ザンビア都市部におけるワイヤーおもちゃの製造と廃材および固形廃棄物の利用
対象とする問題の概要 本稿は、ザンビア都市部の家内工業によるワイヤーおもちゃの製造と廃材の利用に関する調査報告である。ワイヤーおもちゃ(Wire toys)とは、銅、スチール、アルミなどの金属製のワイヤーを用いて乗物、動物、生活用品などの…
スリランカの清掃労働者は地方自治体に雇用され、道路清掃やゴミ回収・処理を行っており、その集住集落には周辺住民や自治体職員から差別的なまなざしが向けられている。また廃棄物管理行政の中では主要なアクターとして捉えられておらず、労働環境の改善も問題にされていない。こういった状況の背景には清掃労働と清掃労働者との結びつきとの自明視がある。
これまでスリランカの清掃労働者に関する先行研究は非常に少なく、唯一の先行研究では、清掃労働者は英国植民地時代に南インドから来たタミル人移民で、低カースト/不可触民の集団であると指摘している。これはこれまで顧みられなかった清掃労働者がスリランカ社会で認知されることを目指している点で評価できるが、清掃労働者の帰属やその意識については十分な検証がなされているとは言えず、また、清掃労働と清掃労働者の結びつきの自明視という点では一般的なまなざしと通底している。
本研究では、先行研究や一般的な清掃労働者像を批判的に検証しつつ、清掃労働者の実態を立体的に描くことを目的として、清掃労働者の集落の成立や変遷、および集落に暮らす人々からみた自己認識を解明する。
これまでの調査により、調査対象の清掃労働者コミュニティの民族・カーストの帰属やその意識の多様性が明らかになり、また清掃労働以外の生業を持つ世帯が現れてきたことが判明した。今回の調査では、先行研究や一般的に考えられる清掃労働者像に深く関係すると考えられる、清掃労働の歴史と集住集落の成立と変遷について、より明らかにする必要性があったため、イギリス植民地下における地方自治体の成立や都市計画、都市衛生に関する報告書等の文献をもとに調査を行った。
(1)清掃労働と清掃労働者の集住集落の起源について
英植民地下(19世紀末~20世紀初頭)、拡大するプランテーション作物の輸送に対応し、道路、鉄道、港湾の整備が進んだが、この建設や荷役を担う労働者が大量にインドから都市部に移住することで人口増加が進み、住宅不足と都市衛生が問題化した。これらに対応するために清掃・廃棄物処理が地方自治体の業務として位置付けられるに至ったことが伺える。また1925年には、都市部の政府関係機関の労働者に対して集合住宅を提供することが衛生問題解決の一方策として提案されたが、これ以降、清掃労働者にも集合住宅が提供されるようになり、清掃労働者の集住集落が形成された可能性が考えられる。
(2)清掃労働者への周囲からの語り
今回の調査において、シンハラ、タミルに関わらず比較的社会的成功を遂げた人々(具体的には調査地のシンハラ地域住民、紅茶プランテーション出身で専門職に就いているタミル人)に共通して、清掃労働者へのある語りが聞かれた。「清掃労働者はより高い教育、より社会的に認められた職業の機会を求めずに、使用人のように服従する生活に甘んじている」というものである。
シンハラ地域住民には、「環境は整っていても向上心がないためにそこに甘んじている」と清掃労働者への構造的差別の否定し、清掃労働者の苦境を彼らの「資質」の問題に還元する姿勢、紅茶プランテーション出身のタミル人には、清掃労働者も「自分たちがそうであったように構造的差別に打ち勝って高い教育や社会的に認められた職業を求めるべきである」という姿勢があるように思われる。
これまでの調査結果から清掃労働者コミュニティにおける教育程度は世代が若くなるにつれて上昇しており、職業の選択肢の広がりも指摘できるが、若者が清掃労働から離れるとは言えない。こういった状況を捉えて、清掃労働者は「向上心がない」という見方がされていると考えられる。
上記の(2)に述べた清掃労働者への語りは、カーストや民族を含む出自によって清掃労働と清掃労働者の結びつきを当然視しているのではなく「向上心がない資質」によって清掃労働と清掃労働者の結びつきを説明しようとしている。この語りは恐らく、発言者が、出自による差別が倫理的に問題であるという前提を持っているために聞かれるものだが、結果としては固定的で均質な清掃労働者像を想定している点で、清掃労働者の出自を特定のものと考える姿勢と通底している。
清掃労働者が清掃労働を選択する理由は、個々に応じて実に様々である。清掃労働者自身は上記のような語りをどのように捉え、なぜ清掃労働を選択するのかについて、彼らを取り巻く経済的、社会的状況、コミュニティ内外の人々との関係性とあわせて明らかにする。これによって上記語りの背景にある清掃労働者像を反証することを、博士論文執筆のための研究として想定している。
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