マダガスカル・アンカラファンツィカ国立公園における保全政策と地域住民の生業活動(2019年度)
対象とする問題の概要 植民地時代にアフリカ各地で設立された自然保護区のコンセプトは、地域住民を排除し、動植物の保護を優先する「要塞型保全」であった。近年、そのような自然保護に対し、地域住民が保全政策に参加する「住民参加型保全」のアプローチ…
エシカル・ファッション・イニシアティブ(EFI: Ethical Fashion Initiative)事業は、国連の機関である国際貿易センター(ITC: International Trade Center)により開始された取り組みである。本事業では、欧州を中心とする国際的に有名なファッションブランドの会社と連携して、ケニアを含むアフリカの国々の「辺境地」に暮らす職人たちの雇用を生み出し、衣服やバック、アクセサリーなどの「倫理的(エシカル)」な製造および販売を促進している。インターネット上ではITCにより、本事業の成果や影響を評価する報告書「ライズ・レポート(R.I.S.E Report)」が公開されているが、事業の実態は未だ明らかにされていない。ライズ・レポートでは、事業に関わる生産者の多くは女性であり、事業をとおして収入および技術の訓練を得ることで、彼女らの暮らしぶりが向上されたと報告されている。
EFI事業に関しては、これまでファッション雑誌やインターネット上のニュースで取り上げられてきたものの、学術的におこなわれた先行研究はこれまでにない。本研究では、第一に、EFI事業の実態を記述することを目的とする。具体的には、ケニアでの現地調査をとおして、本事業のために商品を製作する団体に焦点を当て、どのような状況で事業が実施されているのかを詳細に調査する。第二に、ケニアにおける女性の地位向上という視点から、この事業を分析する。すなわち、本事業の生産者の大部分を占める女性の生産者の生活に注目し、個々人の生活世界に焦点をあてることで、ケニアにおいて女性の経済的および社会的な地位向上がいかに実現されているのかを検討する。
EFI事業に参画する生産団体はすべてが自助団体として政府に登録されている。ナイロビ市内の役場において自助団体を管轄する担当者に、自助団体の実態に関する聞き取りをおこなった。自助団体では、構成員とその家族の利益のために、貯蓄や葬儀の費用の捻出、家禽類の飼育販売といった活動をおこなっていること、また、自助団体と類似する市民団体であるCBO(Community Based Organization) は、自助団体に比べて、より地域に根差した問題の解決を目的としていることがわかった。
EFI事業に参画する2つの生産団体を訪問した。第一は、キアンブ郡において牛の角を加工してアクセサリーを製作するカウ・ホーン・アフリカ自助団体であり、7人の男性構成員が、団体の代表の自宅兼作業場において活動している。参与観察及び聞き取りによって、具体的な製造過程や事業の受注状況を記録した。
二つ目の生産団体は、ケニアの首都ナイロビ郡で主として縫製およびビーズ細工をおこなっているアンバサダーズ・オブ・ホープ女性自助団体である。これまでに受注した伝票及び支払い記録を見せてもらって分析し、また、現在の活動の具体的な状況を記録した。当団体の構成員は大部分が女性であり、共同で使う作業場の家賃を事業の売り上げの一部から捻出している。ケニア政府は女性の事業を支援するプログラムを実施しているが、この団体はその資金を得ていること、また、およそ1年の間、EFI事業からの注文が無く、現在はオランダに拠点をもつ衣服会社へビーズ細工の販売を試みていることがわかった。
この団体のメンバーに、これまでにEFI事業で製作した商品の再現を依頼して、製作の過程を参与観察し、また、作業にかかる時間を計測した。EFI事業からの注文が無いため、メンバーのなかには、かぎ針編みによる衣類や液体の石鹸を販売するものや、より多くの収入を求めて、団体から独立して違う場所で衣類を修理する縫製店を開いたものがいた。
フィールドワーク中は、主としてスワヒリ語を用いて意思疎通を行った。これにより、スワヒリ語の能力が飛躍的に向上し、調査地で円滑な人間関係を築くために役立てることができた。しかし本調査の途中で、EFI事業の関係者および訪問する団体の構成員とのあいだに、調査に関する誤解が生じたため、調査が思うように進まないことがあった。話を重ねる中でこの誤解はとけたが、研究に関する説明が不足していたことを反省した。このことから、言語能力以外にも、調査対象となる人々とのあいだに信頼し合える人間関係を構築することの大切さ、また、利害関係のある異なる組織と関わりながら、研究者としての独立した立場で調査を行うことの難しさを感じた。今後は、特に重要な事柄については繰り返し伝え、正しく理解してもらうよう努め、調査の関係者と良好な関係を築いていきたい。
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