京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ニジェールの首都ニアメ市における家庭ゴミと手押し車をつかった収集人の仕事

ゴミ投棄地への搬入風景。坂をごみの入った重い手押し車を押して登るのは
困難であり、1人が押すと同時に仲間が引っ張り運び上げる。

対象とする問題の概要

 ニジェールの首都ニアメでは急速な人口増加と都市の近代化が政治的課題となっており、近年とみに廃棄物問題が重要視されている。急激な都市化にガバナンス体制や財源、技術の不足が相まって、家庭ゴミの収集がおこわれていない、もしくは不規則である。都市においてはインフォーマル・セクター従事者だけが廃棄物を集めて生活の糧を得ると同時に、都市生活の基盤である廃棄物収集というサービスを住人に提供している [Dias 2016]。生活の糧を得るという行為には、資源と機会へのアクセスの獲得、リスクの管理、家庭やコミュニティ、都市の社会関係の網を維持する[Beall et al.1999]など、単なる経済活動である以上の概念と人の生きざまが含まれる。ニアメでは住人が直接ゴミ収集人にゴミの運搬料を支払うことで廃棄物の収集が成り立っており、ゴミ収集に参入する多くが都市に資源や機会を求めて出稼ぎに来た若者である。これら出稼ぎの若者に着目するとニアメにおける生活と社会的ネットワーク、チャンスとリスクが存在する。ミクロなレベルから廃棄物収集業が作り出す機会と彼らの社会関係を理解することは、マクロなレベルでの廃棄物管理システムの構築という課題の検討にとって不可欠である。

研究目的

 本研究の目的は、ニジェールの首都ニアメにおけるインフォーマル・セクターによる家庭ゴミ収集の仕組みについて明らかにし、インフォーマル・セクターの若者たちの生計手段となっている収集業から、ニアメの都市生活における廃棄物問題の現状と社会関係を明らかにすることである。今回の渡航では(1)個人世帯の消費と廃棄について記録するとともに、(2)ゴミ収集人に対するインタビューと参与観察の2点を中心に実施した。(1)についてはニアメ市のコミューンⅢに居住する個人世帯7世帯を対象にゴミの重量を計測し、消費の内容と廃棄方法を観察した。(2)については収集人と関係者への聞き取りを試みた。ゴミ収集の仕組みについては、収集人の日常業務やニアメ市の役人との関係を聞き取った。また住人とゴミ収集人の関係については、ゴミ収集人の仕事に同行し収集ルートや顧客との運搬料を決める交渉を観察した。

ゴミ箱からあふれた溢れたゴミを掃き集めて手押し車に積む風景。
普段はちりとりと熊手やほうきを両手に持ち収集人が1人でこなす作業である。

フィールドワークから得られた知見について

(1)個人世帯から廃棄されたゴミの内容と重量
 個人世帯から排出されるゴミの重量は世帯ごとに変動し、調査対象とした構成員は4~14人であり、1世帯1日あたり6.2㎏から85.9㎏と大きな幅があった。また、プラスチック袋が1世帯1日あたり12~68袋も捨てられていたが、それは住人が小分けにされた食料品を頻繁に購入し、調理された軽食や飲み物を消費しその包装プラスチックを廃棄した結果であった。
(2)インフォーマル・セクターによるゴミ収集業と日常業務
 調査協力者の収集人ら8人の協力とインタビューから今の仕事に従事するにいたった経緯と、収集ルートや訪問する個人世帯の位置と頻度、ゴミを運搬する廃棄場所、収入と支出など日常業務の詳細を明らかにした。定期的に来訪する収集人の存在はニアメ市の住人たちにとって生活するうえで不可欠であり、それはゴミの引取りを依頼する住人や路上商人たちからの呼びかけによってうかがうことができた。
 これら8人の収集人は本来、農業と牧畜を生業とするザルマとフルベの2民族出身であった。彼らは特定の組織に属さず、個人としてこの職種に参入している。若者は手押し車のオーナーから1日、1週間、あるいは1か月を単位として手押し車を借り受け、収集業務に従事している。オーナーは、農村から出てきた若者たちに手押し車を貸し、仕事を与える一方で、若者たちはオーナーに手押し車の賃貸料を支払っている。聞き取りでは、無一文で農村から出てきた若者がまず頼るのは、同じ出身地の成功者や親族とのつながりであった。今回、話を聞かせてくれた手押し車のオーナーは裕福な商人であり、オーナーとゴミ収集人とのあいだには同じ出身地という縁故関係でつながっていた。また他の職種では就業機会の獲得には激しい競争があること、小商いへの参入には元手が障壁であることが明らかになった。

反省と今後の展開

 調査対象としたゴミ収集人の1人と行動することに時間を費やしてきた結果、ニアメ市に数百人単位で存在する出稼ぎのゴミ収集人の全体像を把握するための情報が不足している。手押し車の貸出事業を営むオーナーは商人や溶接工などの個人事業主、NGOやコミュニティ組織、海外の援助団体などさまざまであるが、その事業形態により収集人の働き方やオーナーとの関係、顧客との社会関係に違いがあるのかが分かっていない。ニジェールの産業構造や経済状況、都市と農村の生活について聞き取りを続け、ニジェールの出稼ぎの若者の置かれた位置づけを理解するのが課題である。今後はニアメ市の手押し車によるゴミ収集の歴史的経緯、手押し車オーナーによる貸出事業の展開、手押し車による収集業に参入する若者のライフコースを明らかにしていきたい。

参考文献

【1】Dias, S.A. 2016. Waste pickers and cities, Environment and Urbanization 28(2):375-390
【2】Beall, J., Kanji, N. 1999. Households, Livelihoods and Urban Poverty, Urban Governance, Partnership and Poverty Theme Paper 3, London School of Economics and Political Science

  • レポート:青池 歌子(平成29年入学)
  • 派遣先国:ニジェール国
  • 渡航期間:2018年7月1日から2018年9月28日
  • キーワード:廃棄物、若者、インフォーマル・セクター、雇用、出稼ぎ

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