京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

手作りおもちゃの世界的な分布と地域ごとの特徴に関する研究

ネパールのインスタントラーメンの袋を用いたカバン

研究全体の概要

 世界各地でみられる手作りおもちゃには普遍性がある一方、地域や時代によっては特殊性が存在する。本研究の目的は、愛知県日進市に位置する世界の手作りおもちゃ館の館長への聞き取り調査から、手作りおもちゃの地域ごとに共通する特徴および特異性を見極める視点を得ることである。
 本調査から、観光客が多く雇用の少ない地域の方が作られるおもちゃにバラエティが生まれること、おもちゃを手作りする人が多いという共通点が見いだされた。手作りおもちゃの素材には、アジアでは特に新聞紙などの紙類やインスタント麺の袋を丸めて糊を用いたものが多く、ビーズを用いてワイヤーに装飾を施したおもちゃは、タンザニアやジンバブウェ、ザンビアなどの東南部アフリカに多くあるなど特異性があることが分かった。
 今後は手作りおもちゃの中でも、特にワイヤーおもちゃに焦点を当て、その起源と伝播の敬意と地域ごとの特徴を規定する要因を明らかにしていきたい。

研究の背景と目的

 おもちゃは人類の誕生以来、国や文明、時代を超えて、多くの地域で日常的に親しまれてきた。おもちゃは四大文明が起こった紀元前4000年から2300年ごろにはすでに存在していたとされ、手作りおもちゃは何千年の歴史を超えて現在もなお基本的な性質を留めたまま存在している〔遠藤1988;White 1970〕。紀元前より、ヒトや動物、乗物などを象った手作りおもちゃは存在するが、模倣から生まれたおもちゃの特徴はその時代、その時代の文化や文明と密接な結びつきを持つとされ、現実でモチーフが有効性を失うとやがておもちゃの世界から消えていくという指摘がある〔和久1980〕。
 上述のように手作りおもちゃには普遍性がある一方、地域や時代によっては特異性がある。本研究の目的は愛知県日進市に位置する世界の手作りおもちゃ館の館長への聞き取り調査から、手作りおもちゃの地域ごとに共通する特徴および特異性を抽出する視点を得ることである。

セネガルのワイヤーおもちゃ

調査から得られた知見

 館長は40年前から工作教室を開講しており、工作教室に通う子どもたちのために、25年ほど前から定期的に海外へ渡航し、世界各国の手作りおもちゃの収集を始めたという。手作りおもちゃの入手について、館長は各国の空港や都市部の土産屋で買うこともあれば、路上で子どもたちが遊んでいるものを頼み込んで譲ってもらったり、普段は別の職を持つ人に作成を依頼したりしてきたそうである。売り手と製作者が違う場合はつてを辿り農村まで行くこともあり、人びとは路上や家の周りに落ちているものなどを利用して手作りでおもちゃを製作していたという。
 手作りおもちゃの共通点について館長は、観光客が多いにもかかわらず雇用が少ない地域の方がおもちゃにバラエティが生まれること、おもちゃを手作りする人が多いことを指摘しており、以前はたくさん手作りおもちゃがみられたインドは経済成長が進むにつれておもちゃが見られなくなっていったという。さらに、あと30年もすれば多くの地域で商品として販売されなくなるかもしれないとも述べていた。
 手作りおもちゃに扱われる素材について、地域ごとに多く見られる素材があり、東南アジアおよび南アジアでは特に新聞紙などの紙類やインスタント麺やスナック菓子の袋を丸めて糊を用いてモチーフを象ったおもちゃが多い(写真1)。ビーズを用いてワイヤーに装飾を施したおもちゃは、タンザニアやジンバブウェ、ザンビアなどの東部および南部アフリカに多く見られる。
 アフリカ大陸の中ではマダガスカル、セネガル、ジンバブウェではおもちゃにバラエティがあるようで、木材やワイヤー、ブリキや瓶の王冠、ビーチサンダル、プラスチックや古布にペンキなど様々な材料を用いた手作りおもちゃが見られるようである。
 館長は本館展示のおもちゃ以外にも多くの手作りおもちゃを保有しているようであり、まとまった手作りおもちゃのコレクションとして非常に価値高いと考えられる。

今後の展開

 筆者はザンビアの手作りおもちゃ、ワイヤーおもちゃ(Wire Toys)の研究を進めている。ワイヤーおもちゃの起源は19世紀末の南アフリカにあるとする説〔McLachlan 2005〕が有力だが、写真2のセネガルのものに代表されるように、世界の手作りおもちゃ館にはコートジボワールやガボン、ザンビア、タンザニア、ウガンダ、ジンバブウェなどのアフリカ大陸各地や、エクアドル、タイなどアフリカ以外の地域のワイヤーおもちゃがみられた。ザンビアでは近年プラスチック類や古布をワイヤーに巻き付けて装飾したおもちゃがみられる。一方で同館展示の他の地域のものには、そのほかアルミ缶や瓶の王冠、ビーズなどを用いてワイヤーおもちゃを装飾しているものがあり、現在では世界中の至る所でワイヤーおもちゃが確認できることが分かった。今後はワイヤーおもちゃの起源とその伝播がどのように起こるのか、もう少し小さなスケールで地域ごとの特徴を規定する要因を明らかにしたい。

参考文献

  • 遠藤欣一郎. 1988. 『玩具の系譜 玩具叢書第二巻』 勁草書房.
  • 和久洋三. 1980. 「おもちゃ私論<あとがきにかえて>」 和久洋三監訳. 1980. 『おもちゃの文化史』 玉川大学出版部.
  • McLachlan, G. 2005. Wire Craft and Urban Space: A Case Study of the Informal Wire Art Trade in South Africa. 41st ISoCaRP Congress 2005.
  • White, G. 1970. Antique Toys and Their Background, Chancellor Press.
  • レポート:川畑 一朗(2019年入学)
  • 派遣先国:(日本)愛知県日進市
  • 渡航期間:2020年11月14日から2020年11月14日
  • キーワード:手作りおもちゃ、文化伝播、世界の手作りおもちゃ館

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