セントラル・カラハリ・サンの子ども社会への近代教育の影響――ノンフォーマル教育の事例から――
対象とする問題の概要 1977年より、ボツワナ政府は、民主主義、発展、自立、統一を教育理念に掲げてきた。1970年代中頃まで狩猟採集を生活の基盤としていたサンの社会は、政府の定住化政策によって、管理、教育、訓練の対象となってきた。こうした…
東アフリカの乾燥・半乾燥地域に分布する牧畜社会を対象にした民族誌的研究では、「水」は不足しがちな天然資源として捉えられてきた。そして、水不足の問題が人道的・倫理的な介入の対象となってきた。それゆえ、この地域を対象にした学術的研究や開発援助は、乾燥・半乾燥地域の降雨や地形に影響される「自然な物質」としての水の獲得や分配(たとえば干魃時の井戸や放牧地の共同利用慣行に関する研究)に焦点をあててきた。これに対して本研究では、これまで「自然なもの」として考えられてきた水を、グローバル資本主義や科学技術および国内外の政治と結びついた、「社会-自然的なもの」として捉えなおす。その上で、牧畜社会の人びとが「社会-自然的なもの」としての水を利用・分配するやり方を明らかにする。
本研究の目的は、社会-自然的な物質としての「水」の利用や配分に関わる実践や想像を通して、現代の東アフリカ乾燥地域における人間と環境の関係について再考することにある。そのために、北ケニアの乾燥地・半乾燥地域に位置するマルサビット郡ライサミス県のメレレ町を対象に、牧畜民による脱領域的な水資源マネジメントに関わる実践の諸相を明らかにする。具体的には、調査地域におけるさまざまな形態の水(たとえばペットボトルの水やボアホールの水等の域外の資源や技術が関わる水、手掘り井戸等の域内の資源や技術が関わる水)の種類、利用可能になった背景、分配方法、言説に関する一次資料を参与観察と半構造的なインタビューにより収集・分析する。
今回の調査では、当該地域における、①水の供給・分配に関わる全体像の把握とともに、②水の供給に関するビジネス活動に関する調査をおこなった。調査対象者は、メレレ町で水の供給をおこなうビジネスマン、水インフラ整備担当者、住民である。メレレ町の人口は約6,500人、世帯数は約1,300戸である。
取水方法には3種類ある。第一は、NGOや地方政府が建設したボアホールである。現在は4つのボアホールが存在する。これらは今世紀以降に建設された。そして、2020年頃には、希望する家庭が水道を利用することが可能になった(有料)。それ以前は、人びとはボアホール付近で水を購入していた。そこにはスタッフが常駐しており、売り上げをボアホールの維持管理に使用していた。だが現在では、自宅までボアホールから水道管を埋設する家庭が増えたことから、ボアホールで水が販売されることはなくなった。そのかわりに、多くの人びとが水道を利用する家に水をもらいに行くようになった。ただし、この地域のボアホールの水は塩分濃度が高いため、主に家畜や生活用水として利用されている。 第二は、季節河川沿いに作られた深井戸である。深井戸とは、車を利用した水の宅配ビジネスのために、機械を利用して数〜10数m程度掘られた井戸をさす。この水は主に飲料水として利用されている。水の宅配は、20Lのジェリカンひとつにつき25ksh(約25円)でおこなわれている。料金の支払いは、当日の夜または後日(家畜市の日など)に行われていた。第三は、季節河川上にある手掘り井戸である。これらは、町及び周辺の牧畜集落の人びとが利用している。これらは利用者自身によって掘られており、利用料が発生することはない。
水の利用者は、用途や経済状況に合わせて複数の水資源にアクセスしていた。また、水宅配サービスを行う人びとは、未払い状況に対しては、水供給をストップするストライキを実施して、即時決裁を定着させようとしていた。
今回の調査では、調査地域における水の供給・分配の全体像を把握しようとした。そして、水の宅配業者やボアホールの管理組織に対する調査を行った。今後は、個々のボアホール・深井戸・手掘り井戸等の取水源が建設・利用されるに至った歴史的過程を明らかにする。加えて、水の供給・分配の流れを知る上で、商店で販売されているペットボトルの水の販売・利用状況や、手掘り井戸の利用状況に関する一次資料を収集する。そのために、これらの水を、誰が・どの程度利用しているのかに関する参与観察を行う。また、今回の調査では政府関係者および深井戸建設事業者・出資者を対象にした調査をおこなうことができなかったので、今後の課題とする。
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