住民組織から見る、ジャカルタ首都圏における空間政治
対象とする問題の概要 インドネシアにはRT・RWと呼ばれる住民主体の近隣地区自治組織(以後、住民組織)がある。日本軍占領下時代に導入された隣組から行政の延長として整備された住民組織は、30年以上続いたスハルト開発独裁体制の最末端を担った。…
私が研究対象とする「タカーフル」とは、端的に言えば「イスラームの教義に則った相互扶助の仕組み」である。私たちが一般的に思い浮かべる生命保険や損害保険といった商品に近いが、ムスリム(イスラーム教徒)が利用できるように工夫が凝らされている。例えば、タカーフルは①保険リスクがタカーフル会社に移転しない、②タカーフル事業を支えるイスラーム教義に則った契約が必要である、③シャリーア(イスラーム法)諮問委員会が設置されている、④毎年シャリーア審査または監査が行われるという点で、従来型の保険とは異なる。タカーフルの会社は、1979年にスーダンとサウジアラビアで設立されて以来、UAEやマレーシアといったイスラーム世界だけでなく、アメリカやイギリスでもその数を伸ばしている。
本研究の目的はマレーシアのムスリムたちが、タカーフルを活用しながら、いかに不確実性に対応しているのかを人類学的に明らかにすることである。世界的に成長を続けるタカーフルの先行研究は、①タカーフルと従来型保険の違いをまとめたもの、②タカーフル参加者(被保険者)が商品に求めることをアンケート調査したものが多い。しかし、タカーフルと従来型保険はどちらもリスクに対応することが目的であり、共通点も多い。①の視点では違いにばかり焦点が当たり、両者がもつれ合って共存する現実に則しているとは言えない。また、②の方法ではタカーフル参加者からの一方向的な要求だけで、タカーフル会社側がいかに応答しているのか、双方向的な影響が分からない。そこで私は、タカーフル商品を販売する会社側と、タカーフル商品を選択する参加者の双方を見ることで、タカーフルを巡るイスラーム経済活動という文化を明らかにできると考える。
マレーシアタカーフル協会(Malaysian Takaful Association: 以下MTA)とタカーフルエージェント(販売員)3人への聞き取り調査及び、人からの紹介や街中で出会ったマレー人との会話から得られた2つの知見を述べる。
①タカーフル商品へのマレーシア中央銀行の関与
マレーシアのイスラーム金融について、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia: 以下BNM)の意向を無視しては説明できない。現にMTAで働く男性は「タカーフルはBNMが描くマレーシア経済の青写真の一部を担っている」と言う。彼はタカーフルだけでなく銀行、市場、金融といった要素がそれぞれに役割を果たしエコシステムを作ることで、イスラーム経済が回っているという認識を語った。タカーフル会社の1つであるTakaful Malaysiaで働く男性も「タカーフル新商品の内容は、主にBNMの取り決めに沿うことになる」と述べ、BNMのタカーフルへの影響力を示唆した。
②タカーフルを取り巻く人たちの認識
タカーフル商品において「イスラームの教義に則った」という点がどこまで重視されるかは、立場によって大きく異なるように見えた。商品の内容を決める供給側、販売者として働くエージェント、そして参加者(被保険者)の三者に分けてみよう。まず供給側、つまりMTAに代表される組織は、イスラームの教義に則った仕組みであることを説明に含む。しかしエージェントから、イスラームを意識する発言はほとんど聞かなかった。むしろ意外だったのは、従来型保険であれタカーフルであれ、参加者は自分にとってより有利な商品を選ぶだろうという合理的な認識である。現に、バイク事故によって従来型保険を利用したマレー人男性からは、イスラームの教義に重きを置く発言は全くなかった。政府が運営する公的な病院は非常に安価に利用できることから、医療に関して従来型保険/タカーフルのどちらもあてにしない場合もある。
反省点は、タカーフル会社正規社員とタカーフル参加者への十分な聞き取りが実施できなかったことだ。タカーフルに関わる多様な立場からの声を集めるために、次回以降の課題とする。また、今回の調査を通して、イスラーム金融・保険業界で働くマレー人は、マレー系人口において高い割合を占めているのではないかという感覚があった。マレーシア政府として、イスラーム経済を推進したい意向が窺える。
以上をふまえ、今後はマレー系ムスリムの就業分野や世代・地域毎のライフスタイルの変化にも注目しながら研究を進めたい。生命保険や家族タカーフルの選択を考える際、世帯構成の把握は必須である。マレーシア東部の田舎ほど夫婦が持つ子供の数は多く、クアラルンプールのような都市、特に若い世代ほど少ないという認識を持つマレー人が多かった。その妥当性も含め、調査していきたい。
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