日本における「無国籍」者の生活実態 ――国籍、入管法、在留資格制度の狭間で――
研究全体の概要 本研究は、国家による保護がない「無国籍」状態の人々が、いかに無国籍となり、国家が制定する法律や制度枠組みの中でいかに生きているのかを明らかにすることを目的としている。本研究では、人口流動性の高いボルネオ島北部のブルネイにお…
近年、アフリカにおける野生生物保全の現場では、自然環境だけでなくその周辺に住む人々を巻き込み、両者の共存を目指す「住民参加型保全」というボトムアップ型の保全活動が注目されている。本研究のフィールドであるMara Conservancyは、住民参加型保全の先進国であるケニアの中でも地域住民に与えられた権限が大きく、注目すべき活動が多くなされている自然保護区である。本研究では2001年に活動を開始したMara Conservancyの設立が住民の保全活動へ参加意識にどのような影響を与えたのか、またコロナウ渦で現地の保全活動にどのような影響が生じたのか、等について注目する。そして日本の生物保存地域(甲武信ユネスコエコパーク)でのフィールドワークの結果を踏まえながら、Mara Conservanncyにおける住民参加型保全の取り組みの実情と、アフリカに数多く存在する自然保護区の形態の中でConservancyとはどのような位置づけにある自然保護区なのか?について考察していく。
近年アフリカでは自然環境と経済活動の両立を目指す住民参加型保全が注目され、本研究のフィールドであるMara Conservancyも住民参加型保全を標榜している。ケニアのConservancyといわれる自然保護区は、生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目指す、という点で生物圏保存地域と多くの共通点を持つ。生物圏保存地域はユネスコエコパークの名で知られ、UNESCOによって国際的に認定された地域であり、日本には10箇所が存在する。その中でも1都3県にまたがる甲武信ユネスコエコパークは日本の生物圏保存地域の中でも設立年が2019年と最も新しく、ケニアの調査で着目する「保護区設立が地域住民の意識にどのような影響を与えたのか」に関する比較研究を実施できると考え、フィールドワークを実施した。本研究では甲武信ユネスコエコパークで得られた知見も踏まえながら、ケニア、またはアフリカ全体における住民参加型保全の在り方とConservancyという自然保護区の存在意義について考察する。
今回の調査では甲武信ユネスコエコパークが位置する自治体の担当者へのフォーマルインタビューとユネスコエコパーク内に存在する文化財の関係者、観光客へのインフォーマルインタビューを実施した。フィールドワークを通じ、以下の3点が明らかになった。
1点目は各市町村自治体レベルでユネスコエコパークに関連した主体的な動きをしている例が少ない、という点である。県が指示した仕事(パンフレットの配布など)以外は行っていない市町村がほとんどであった。これは甲武信が2019年にユネスコエコパークに登録されてから日が浅いことに加え、甲武信ユネスコエコパークの管理が県レベル(トップダウン式)で行われているためと考えられる。同じユネスコエコパークでも市町村が主体となって2014年に設立された南アルプスユネスコエコパークに電話で聞き取り調査を行ったところ、市町村ごとに協議会を作り独自の活動を展開していた。このことから、管理の主体がどこにあるかによって、ユネスコエコパーク毎にその内実は大きく異なると予想される。2点目は市町村ごとにユネスコエコパークに抱く印象も異なっているという点である。ユネスコエコパーク登録を環境保全に繋げるのか、観光推進に使うのか、について市町村毎は、それぞれ異なる見解を持っていた。3点目はユネスコエコパーク内に位置している文化財の関係者のユネスコエコパークへの認知の低さである。調査を通じユネスコエコパーク内にありながら、その文化財がユネスコエコパークの一部となっていることを認知していない職員や関係者が見られた。これは甲武信ユネスコエコパークだけでなく、日本各地のユネスコエコパークが抱えている問題であり、今後県や市町村が主体となって観光地や地域住民へ広報活動を行って行くことが非常に重要になると考えられる。
甲武信ユネスコエコパークでは登録からの年月の浅さ故か、地方自治体の担当者や文化財関係者間でユネスコエコパークの概念の解釈に違いが見られた。このような例はケニアでも見られる可能性があり、様々なアクターにインタビューを行いConservancyへの認識の違いを浮き彫りにできる可能性がある。またフィールドワークを行った市町村で唯一協議会を作るなど、主体的に活動を行う市の担当者が「ユネスコエコパークの登録によってよりも、その環境自体の存在価値が動機になって活動が行われていることが理想」と語っており、アフリカの在来知を活かして行う住民参加型保全に通じるとものが多いと考えられる。ケニアの調査でもConservancyという存在に関わらず、地域住民が周囲の環境へどのような意識を持っているのか、に注目する必要がある。今後は日本国内の他のユネスコエコパークでの調査も検討し、得られた知見をもとにケニアのMara Conservancyの存在意義について多方面から考察していく。
堂本暁子. 1997. バイオスフィアリザーブ(生物保存地域)と生物多様性『ワイルドライフフォーラム』2(4):165-173
岡野隆宏. 2012. 我が国の生物多様性保全の取り組みと生物圏保存地域 『日本生態学会誌』62:375-385
田中俊徳. 2012. 特集を終えて:ユネスコMAB計画の歴史的位置づけと国内実施における今後の展望 『日本生態学会誌』62:393-399
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