「幻想的なもの」は「現実的なもの」といかにして関わっているか ――遠野の「赤いカッパ」をめぐって――
研究全体の概要 「幻想的なもの」は、「現実」としての人間の身体の機能から生じながらも、身体の次元をはなれて展開している。そして、この「幻想」が共同生活や言語活動によって否定的に平準化されていく過程を通じて、社会を形成する「象徴的なもの」に…
アフリカ、カメルーン東南部では熱帯雨林で狩猟採集を主な生業として暮らす人々が住んでいる。彼らにとって狩猟という行為は生業・文化・社会に広く影響を与えている要素として認識できる。近年は定住・農耕化や貨幣経済のインパクトを受け従来の狩猟採集生活は変容しつつある。
一方、産業社会と呼ばれる日本では、狩猟はかつて各地の里山で副次的に行われ、獲れる獣肉を貴重なたんぱく源としていた地域もあった。戦後から現代にかけて、労働形態の変化、畜産業の増加、農村から都市への人口流出などにより、生業としての狩猟は殆ど機能しなくなり、また娯楽目的の狩猟人口も年々減少している。 このように、開発と近代化が進むアフリカ熱帯地域と過疎高齢化が進む日本の農村地域で狩猟はマイナー或いはよりマイナーな存在になりつつある。本研究では日本の農村において個人と社会へ狩猟がどのような影響を与えているのか考察する。
日本の狩猟は60年代にブームを迎えて以降、狩猟人口は年々減っている。一方で、近年は里山の荒廃や地域の過疎高齢化によって農作物の獣害被害が増加し狩猟の必要性が高まっている。また趣味、生活スタイル、ビジネスとして新たに狩猟を始める人々が現れ再び狩猟が注目されている。本研究では日本の農村地域で行われている狩猟が狩猟者個人と地域社会にとってどのように位置づけられているのか明らかにすることを目的とする。
第一回目に宮崎県串間市で行った国内調査では、狩猟と地域の歴史的な結びつきは弱いが、狩猟者個人の人生や生活にとって欠かせないものであり、娯楽と生業の間の存在(マイナーサブシステンス)としてこの地域の狩猟を考察することが出来た。第二回目の調査では、地域社会と狩猟が密接に関係し精力的に鳥獣被害対策に努めている新潟県十日町市の事例を取り上げる。
今回の調査では、狩猟者へのインタビューを中心に郷土資料の収集と参与観察を行った。会員数118人(令和2年)が在籍する十日町猟友会に調査協力を依頼し、うち27名と他猟友会員13名、計40名に狩猟に関する聞き取り調査を実施した。
文献調査によると、この地域では遅くとも江戸時代後期には山間部で狩猟が行われ、ウサギ、カモシカなどの小型獣や日本の固有種ヤマドリが主な獲物であった。また、1950年くらいまでウサギの肉は冬季の貴重なたんぱく源であり、十日町市の一部の地域ではウサギ狩りが集落をあげた伝統行事として近年まで親しまれてきた。
インタビューでは、「狩猟・獲物の種類」「猟の醍醐味」に関する質問に対し約半数の狩猟者がウサギの巻き狩りまたはヤマドリやカモ撃ちを好んで行うと回答した。ここから昔から生息していたウサギやヤマドリと地域との関りが深いことがわかる。
ところが、聞き取りによるとウサギやヤマドリは天敵が増えたため激減し、イノシシ、シカ、クマなどの大型獣は10~15年ほど前から頻繁にみられ、これらの動物による農作物被害も増加している。このように十日町市の里山や山間部の生態系が変化していく中で、狩猟の位置づけや楽しみ方にも影響与えている。猟友会で有害鳥獣駆除の仕事が増えたり、人気の高いウサギやヤマドリの狩りが難しくなったことで、娯楽としての狩猟ができる機会が少なくなった。一方で、大きな獲物を狩ることに魅力を感じる人、大型獣の肉を販売する人、地元の農家のために害獣駆除を行う人なども出てきた。
調査の結果、十日町市で行われている狩猟は娯楽やスポーツに加え、地域への奉仕活動、ジビエ販売、仲間との共同作業、人付き合い、生活のコミュニティ、ライフスタイルなどの要素が各狩猟者によって複雑に組み合わさり多様な存在として位置づけられている。そして地域社会にとって狩猟は農地や里山を守る手段として認識されている。
第二回目の国内調査では、新潟県十日町市の地域社会と狩猟者個人にとっての狩猟を明らかにすることが出来た。今後は今回集めた狩猟に関するデータを、狩猟者が好む獲物や狩り方、狩猟を行う目的などに分けて整理し、これらの項目に関する先行研究の事例を参照・比較する。その後、娯楽と生業の間の存在として位置づけられていた狩猟やマイナーサブシステンスの概念の有効性を検討する。
十日町編さん委員会.1992年.『十日町市史 資料編1自然』.十日町市.
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