南アジアにおけるイブン・アラビー学派
対象とする問題の概要 本研究では、イスラームの代表的スーフィーであるイブン・アラビー(d. 638/1240)の思想が、南アジアにおいてどのように受容されてきたのかを明らかにすることを目指す。その際、19-20世紀インドのウラマー・スーフ…
イスラーム金融では、利子と共に不確実性が禁止されている。しかし、現代の金融の一側面である金融派生商品(デリバティブ)は、リスクテイク・不確実性を伴う。そうしてみると、イスラーム金融における金融派生商品の実践にまつわる法的な判定では、なし崩し的に、部分的に不確実性が許容されているように見える。しかしそれは、イスラーム金融で不確実性という意味とされている「ガラル」が不確実性とリスクを微妙に包含した存在であるからである、と考える。
そこで、経済学史上のリスクと不確実性の古典的な区分をヒントに、イスラーム型金融派生商品で部分的に許容されているように見える不確実な取引は、リスクと不確実性をどれほど区別しているのかによると予想する。
その上で、イスラーム型金融派生商品に対する議論・見解から、現代イスラーム金融におけるガラル概念の経済的含意の探求を進める。
本研究の目的は、現代イスラーム金融の実務的な側面からの分析のための実地調査である。マレーシアは金融ハブであり、国策でイスラーム金融を進めているため、本地を対象にした。具体的には、研究に必要な語学力の強化、各金融機関の見学・取材と、イスラーム金融専門のために建てられた大学で行われる学会への参加である。見学・聞き取り調査を通じて、現場から見たイスラーム金融利用と、全体的なイスラーム金融界の傾向について捉える。そのために、聞き取り対象はマレーシアにある日系金融機関や、Public Islamic Bank、May Bankといった、マレーシア内で展開し日々の業務を行う機関となった。また、学会に参加することで、学問的検知からのイスラーム金融と、イスラーム金融研究の最新の動向についてキャッチすることを目的とした。
イスラーム金融の現場の体感・聞き取り調査であるが、これはマレーシアにある各イスラーム金融機関に訪問した。まず訪問したのが、マレーシア内で展開する、他国籍の金融機関のマレーシア支店である。ここでは、イスラーム金融の現場から見た法的側面の現実的運用について聞き取り調査を行った。この中で、特に思い知らされたのが、SDGsを掲げた金融とは対照的に、イスラーム金融に対する世界からの注目度が下がりつつある、ということである。これは、マレーシア政府はイスラーム金融の推進政策を取っているものの、今は対外的な看板にはなっていない、ということだ。
また、Public Islamic Bank、MayBank、といった、現地で展開し大規模な支店を持つ金融機関にもインタビューを行った。聞き取り調査を通じて実務レベルでのイスラーム法の展開を尋ねたかったが、規約によって触れることのできない部分が多く、業務インタビューにとどまった。その他金融機関とも繋がりを作ることができた。こういった取材を通し、金融機関が契約している法実践の会社や新たな文献などの新情報を得ることができた。
学会は、INCEIF大学で行われた、IFBBE2022に参加した。マレーシア中央銀行が設立した実践的な大学が主催の学会であるため、タイトルでEthicsを標榜している学会にもかかわらず、私が行う概念的な研究と比べて実利的・計量的な研究発表が多かったが、イスラーム経済の分析やイスラーム金融機関の業務に限らず、マネジメントの研究や漁業をテーマにした発表など、幅広いトピックが扱われていた。総じてレベルが高く、イスラーム金融研究の裾野の広さを知った。この学会を通して、現地学生との交流はもちろん、発表に来ていた博士・教授とも繋がりを持つことができた。
今回の調査の反省としては、まず、調査対象者を広げられなかったことが挙げられる。事前の想定では、別の日系金融機関、並びに他の金融機関にもインタビューを行う予定を立てていたが、人脈のないところでは面会の承諾をなかなか得ることができず、インタビューに至らなかった。また、そもそもの調査不足で取材対象者としていた方がいなくなっているというアクシデントも起きた。調査を重ねる中で確実に人脈を広げ、協力関係を築いていく努力だけでなく、執拗な準備が必要である。今後は、今回の調査で手に入れた現地の文献を読み込むこと、今回の聞き取り調査で明らかになった新情報(金融機関が契約している法学アドバイザーなど)の深掘りを行いつつ、当初の筋書き通りに予備論文を進めていく。また、今回の調査で知ったイスラーム金融研究の状況は、直接的には予備論文に活かせないものの、研究を進めていく上での参考になるだろう。
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