島根県津和野町のカワラケツメイ茶の生産をめぐる 自然条件の適合性と歴史
研究全体の概要 島根県津和野町では、マメ科の草本性植物であるカワラケツメイ(Chamaecrista nomame (Makino) H. Ohashi)を材料とした茶葉が生産されている。元来カワラケツメイは河原の砂地や道端また森林の緑辺…
熱帯低湿地の中で水が溜まりやすい地域には、植物遺体の分解が途中で止まり、炭素と水の巨大な貯蔵庫と称される熱帯泥炭湿地が発達しやすい。インドネシアは世界最大の熱帯泥炭湿地保有国である。泥炭湿地は貧栄養で農業に適さないため、近年まで開発の手を免れてきた。しかし、20世紀後半から始まった移民政策の影響により、泥炭湿地においてもプランテーションを含む開発が始まった。その際、泥炭湿地の水位を植物の生育に適したレベルまで下げる必要があり、そのために排水路が掘削された。しかし排水を伴う開発は泥炭湿地の乾燥を招き、泥炭湿地の劣化・荒廃、さらには泥炭火災を引き起こす。
近年こうした泥炭湿地の劣化が問題視され、政府やNGOによる修復や再生への取り組みが進められている。一方、民族によって泥炭地の利用方法がどのように異なり、その違いが泥炭地に生育する植生にどのような影響を与えているかは、あまり明らかになっていない。
博士予備論文では、熱帯泥炭地域の民族構成ごとの利用手法を明らかにした上で、それぞれの手法ごとの泥炭地植生生態系への負荷を明らかにすることを目的とする。調査対象地のインドネシア・中央カリマンタン州には、約31,000km²の泥炭湿地があり、複数の民族が先住者として居住しているほか、移住政策などで移り住んだ移住者が暮らしている。中央カリマンタン州の村落は、先住民社会、先住民と移住者の混合社会、移住者社会の3つに分けられることがこれまでの研究で指摘されている。これらの民族構成が泥炭地利用とそれぞれの植生遷移にどのような影響を与えるかを明らかにすることで、それぞれの社会における今後の泥炭地管理のあり方について提言できると考えている。
今回のフィールドワークでは、セバンガウ国立公園内で行われたインドネシア人研究者の調査に同行した。セバンガウ国立公園は、中央カリマンタン州の州都パランカラヤの南西に位置する2004年に設立された国立公園で、インドネシア最大の泥炭湿地保全地域の一つでもある。
私はセバンガウ国立公園内の村落に居住するダヤク族の調査協力者とともに、泥炭湿地林調査に同行した。以前に訪問したことのあるインドネシア・リアウ州の泥炭地とは大きく景観の異なる泥炭湿地林であった。
リアウ州で訪問した泥炭地には、森林が切り拓かれ大規模な排水路が掘削されたアブラヤシプランテーションが広がっており、泥炭は乾燥していた。泥炭土壌は柔らかいとはいえ長靴ごと埋まるほどのぬかるみではなく、注意して観察しなければ一般のミネラル土壌との違いがわからなかった。一方セバンガウで訪れた国立公園内の泥炭湿地林は、住民により継続的に利用されていたが、排水路の掘削を伴う大規模な開発はされていなかった。調査協力者の居住する村落は水上集落で、森林も水に浸かっており、調査はボートに乗って木道が設置された地域まで移動したあと、腰まで水に浸かって実施した。リアウ州の泥炭地は乾季に、セバンガウの泥炭湿地林は雨季に訪れたという違いがあるとはいえ、セバンガウでは明らかに他の土地とは大きく異なる泥炭湿地林の様相が強く印象に残った。
しかしながらセバンガウの泥炭湿地林にも、乾季に起こった火災跡地が見られた。セバンガウで訪れた場所はリアウ州の伐採許可地域とは開発の規模が大きく異なる、保護された国立公園内であり、雨季には水に沈む湿地帯である。そのような地域でも火災が生じた跡を目の当たりにし、泥炭湿地に居住する人々にとって、火災が生じやすいという現実は生活に直結する逼迫した問題だと実感した。
反省点は、調査許可の取得が遅れたため、現地調査を実施できなかったことである。調査地の選定に出かけることができないばかりでなく、調査地で関係者との信頼関係を築くためのコミュニケーションを取ることなど調査に関する活動を行うことができなかった。調査では現地居住者との対話やインタビューを通じて情報収集することが必須であるため、できる限り信頼構築のための時間や現場を視察する時間を取りたかった。
一方で、今回はインドネシア人研究者の調査に同行するという機会に恵まれ、調査地を、より多面的に捉える視点を得られた。例えば、泥炭湿地林特有の木本種については、私が当初知りたいと考えていた同定方法だけでなく、薬用や化粧目的など民族植物学的な利用法とともに知ることができた。
次回の渡航の際には、役場や関係者へのインタビューを実施し、調査地を決定したのちに、村落ごとの民族や土地利用に関する調査を行うことを予定している。
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