京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

海と共に生きる人々――セネガル沿岸部における海産物利用と浜仕事の現状――

夕方、船が着くと同時に集まる人々

対象とする問題の概要

 セネガル国は年間約40万トンの水揚げ量を誇るアフリカ有数の水産国であり、水産業は同国のGDPの約11%を占める重要な産業である。同国の総人口に対して15%を占める零細漁業者は、木造船を用いて漁を行う。同国では動物性たんぱく質の70%を魚に依存しており(Dubois and Zografos,2012)、ユネスコの無形文化遺産である料理チェブジェンにも魚類や貝類が用いられている。近年同国近海の水産資源の減少から、持続的な水産資源利用を目標に様々な環境保全の取り組みが行われているが、様々なコンフリクトも起きている。先行研究では、魚類の生物学的研究や漁業者を対象とした質的研究はあるものの、海洋資源管理や環境保全に関するアクターとして沿岸部に住み浜で仕事をしている人や水産物利用を含めた漁民文化に焦点があてられたものは十分ではない。

研究目的

 本研究は、セネガル沿岸部において海を基盤とした人々の生活を現地住民の視点から明らかにし、海洋資源管理や海洋資源利用に関する新たな視座を提供することを目的とする。調査対象は水産資源を商材とする仲買人、水産加工を担う女性グループ、調理者や消費者、更には漁具や木造船を製造している職人など、広義の「漁民」とする。水産物の利用や彼らの営みは関係性の上に成り立っているため、各アクターの仕事や営みだけではなく、そのアクター間のつながりも詳細に記述することで、水産資源の加工、利用、流通が地域住民のどのような社会的ネットワークを基盤として行われているのか、また水産物を通じて地域住民はどのような社会的ネットワークや文化を構築しているのかを明らかにする。
 今回の渡航では、①浜での仕事②日常的な水産物利用、を参与観察と半構造化インタビューの手法を用いて調査した。本研究は、広義の「漁民」の日々の営みを明らかにすることで、漁村において海がもたらす文化的/社会的/経済的価値を明らかにすることを目標とする。

浜で船に色付けを施すアーティスト

フィールドワークから得られた知見について

 今回、首都ダカールから南に約100kmに位置する漁村ポイントサーレンにて調査を行った。ポイントサーレンはイェット、トゥーファ、ヨホス、パーニュなどと呼ばれる貝類の水揚げ量が多い地域である。これらの貝類は、塩漬けにして乾燥させるなどの加工後に市場に出回り、セネガルの家庭料理に用いられている。一方で魚類の水揚げ量は少なく、一般家庭で日常的に食べる魚類は、売店で働く女性が近隣の大きな市場から1~2日に一度仕入れてきたものである。ただし、船のキャプテンや船員のいる家庭ではしばしば売りに出さない魚(外国や近隣の大型市場に出回らない魚)を昼食用に調理、またはおやつとして焼いて食べていた。漁獲量が多いと漁師は親戚や友人、近所の人に魚を配ることもあった。チョーフやコンカーレなどの大型の魚や、イェレデやスンなどのイカやエビ類は近隣の大型市場やヨーロッパ、アジアなどに輸出されるため、村内の港の建物の中に運ばれるが、地元住民による自家消費用に買い付けも認められていた。大型魚の漁獲量が多いと、漁師は村の水揚げ場ではなく、近隣の大きな港で水揚げすることもあるという。
 浜では、船を着岸させる手伝いをするturnegaalや、banabanaと呼ばれ漁師と直接交渉する小口の仲買人、また彼らが買い取った魚や貝類を加工する女性グループのtojkat、洋服や生活用品を売る行商人など、インフォーマルセクターに分類されるであろうたくさんの職種を観察することができた。他にも浜辺では、現役を引退した漁師が小屋に集まって網を編みなおしながら雑談をしている光景や、木造船を作り上げる船大工や船を塗装するアーティストの仕事も確認できた。
 現在セネガルでは、漁師の安全性に配慮し伝統的木造船をFRP船(ガラス繊維強化プラスチック船)へ移行する動きが出ている。FRP船が完全に導入されれば、漁獲量や漁獲物、漁場の変化は勿論、様々な影響が浜での仕事に出てくることが予想される。

反省と今後の展開

 今回の調査は、初渡航で語学が十分でないまま、村の基礎情報を知るところから始まったため、浜で働く人々の動きを把握すること、また彼らの説明を理解することに非常に多くの時間を要した。ホストファミリーや村でできた友人たちが、根気強く私に仕事を見せ、教えてくれたおかげで何とか調査を進めることができた。しかし、質問項目を設定していなかったり、深いインタビューが困難であったり、重さを量ったり長さを測る数量的な調査ができなかったことが、反省点としてあげられる。今後は、得られたデータをもとに何を明らかにしたいのかを精査し、人々の営みや語りをより丁寧に調査したいと考えている。

参考文献

 Carolyn DuBois, Christos Zografos.2012.Conflicts at sea between artisanal and industrial fishers: Inter-sectoral interactions and dispute resolution in Senegal, Marine policy ,;36(6);1211-1220.

  • レポート:髙橋 明穂(2023年入学)
  • 派遣先国:セネガル
  • 渡航期間:2023年11月2日から2024年1月30日
  • キーワード:漁民、水産資源、インフォーマルセクター

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