京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

木材生産を目的とする農林複合の可能性 /タンザニア東北部アマニ地域を事例に

急斜面の中、躊躇せずにC.odorataを伐採するチェーンソー職人

対象とする問題の概要

 アフリカ諸国では、高い経済成長を遂げたことで、人口が急激に増加している。家屋を建てた後に人々が求めるものは、ベッドやソファなどの家具であり、その材料には耐久性の優れた天然の広葉樹が用いられてきた。しかし、天然林への伐採圧が高まりから、タンザニアの天然樹はほとんど伐りつくされてしまい、今では近隣諸国からの輸入に依存している。
 この問題の解決策の一つとして考えられるのが、林業と農業を組み合わせた複合経営である。タンザニア東北部の東ウサンバラ山東斜面(以下、アマニ地域)では、ドイツ植民地期に持ち込まれたセンダン科の外来樹が地域住民によって畑に植林されており、木材産地を形成している。
 農業と林業を組み合わせた生業としてアグロフォレストリー研究があるが、その多くは非木材林産物の獲得を目的とするもの(Fernandesetal.1984)で、木材生産を目的とするものはほとんどない。

研究目的

 本研究では、アマニ地域でみられる農林複合経営に着目し、ドイツ植民地期にもたらされた外来樹を用いた木材生産と食料生産を両立する要因について生態・社会経済の視点から明らかにすることを目的とする。
 1902年、ドイツ植民地政府はアマニ地域に「アマニ生物・農業研究所」を設置し、さまざまな有用樹を試験的に栽培した(栗原2018)。有用樹の中には、鳥によって種子が拡散されていくものもあり、研究所の外へ広がった。地域住民たちはその樹種の有用性に目をつけ、自身の畑の主要構成樹として積極的に植林していき、コショウの支柱や家屋の建材として利用していた。いっぽう、家具用の天然広葉樹が切りつくされたことで、家具用木材の価格は高騰している。自家消費用だったセンダン科の外来樹は、天然樹の代わりの材として、木材商社によって伐採されるようになり、今では木材産地を形成されている。

チェーンソー職人に対して板の輸送費の値上げ交渉をする女性たち

フィールドワークから得られた知見について

 調査地域における農林複合経営の実態を把握するために、調査地における畑の毎木調査と土地の実測をおこなった。また、木材商社に対して流通に関する聞き取り調査をおこなった。
 調査村区は自然保護区と川に囲まれており、新たに拓く土地は存在しない。多くの世帯は自身の土地を持つか、ほかの住民から畑を借りて農業を営む。彼らは家屋から離れた畑で主食用のトウモロコシを栽培し、別の畑では樹木や香辛料、根栽類を混作している(以下、この畑を植林畑と呼ぶ)。植林畑を構成する作物や樹木は世帯によって大きく異なるが、近年の傾向としてコショウの単作化を目指す傾向がみられた。
 14筆の植林畑における毎木調査では、68種1425本の樹木を確認できた。主要構成樹種はセンダン科のCedrelaodorata、Toonaciliata、マンゴー(Mangiferaindica)、クワ科のMiliciaexcelsa、ココヤシ(Cocosnucifera)であり、C.odorataとT.ciliataはともに木材用として積極的に植林されていた。
樹木の伐採を手掛けるのは、おもに都市部からの木材商社が雇ったチェーンソー職人である。チェーンソー職人は樹木を切り倒すと、その場ですぐに製材する。板材は、一時的に幹線道路沿いに集められ、目標枚数の製材が終わると、トラックで市場へ運ばれていく。
 アマニ地域で最も多く流通している板材はクロウメモドキ科のMaesopsiseminiiとセンダン科のC.odorataであり、いずれもドイツ植民地政府がアマニ地域に導入した樹種である。アマニ地域では樹木の品種によって買取り価格や税率が大きく異なっており、天然の広葉樹には高い税金が課せられていることがわかった。天然林の過伐採が制限される中で、M.eminiiやC.odorataは生長が早いため、木材商社は安価で木材を買い付けることができる。ドイツ植民地にもたらされた外来樹を地域住民が自身の畑に植えることで、安価な家具用の木材産地が形成していったのである。

反省と今後の展開

 前回の渡航と比べて調査期間が短かったため、集中してデータを集めることを心掛けた。村区にある全世帯の畑を対象に測量をするのは時間が間に合わないと考え、対象世帯を無作為に抽出した。しかし、クランごとに抽出しておけば、少なくともクラン単位の土地利用の実態を理解できたため、抽出方法が反省点の一つである。何のためのデータなのか、データから何が言えるのかを考えてから行動を移す必要を感じた。また、樹木の伐採前後の光環境の計測をおこなった際、伐採がいつ、どこで誰の畑でおこなわれるのかを把握するのに時間がかかり、畑に出向いたころには伐採が終わっていることが何度もあった。こうした事態を防ぐために地域住民やチェーンソー職人とのコミュニケーションの中で、常に情報取集をしていく必要がある。

参考文献

【1】Fernandes, E. C. M. and Nair, P. K. R. 1986. An evaluation of the structure and function of tropical home gardens. Agricultural Systems, 21(4). 279-310.
【2】栗原久定.2018.『ドイツ植民地研究』合同会社パブリブ,239-310.

  • レポート:小林 淳平(平成30年入学)
  • 派遣先国:タンザニア
  • 渡航期間:2019年6月5日から2019年9月14日
  • キーワード:アマニ自然保護区、外来樹、根栽類、香辛料、ドイツ領東アフリカ

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